2月 9th, 2010 by taso
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仕事からの帰り道、マンションに近付くと無意識に部屋の窓を見上げています。そして、そこにハクがいると思うと笑顔になりました。玄関のドアを開けるとすぐそこで待っているはずです。時々待っていないときもあるけれど、それでも。
人間がトイレに入ると、寝ていてもわざわざ起きてきて、不機嫌そうに扉の角に頭を器用に撫で付けたりして、そのうちこちらの尿意につられるのか、猫用のトイレに入って用をたします。ハクとの暮らしは、口元が緩む出来事の連続でした。一日残らず、微笑みをくれた愛しのハク。
去年の夏、盆のさなかに駆け込んだ病院で腎不全と診断、そのまま入院してから二週間、一度もこの部屋に戻ることがなくハクは永眠しました。週末には一時退院ができるかもしれないと希望を抱いていた金曜日の朝でした。
入院中、毎日見舞いに行きながらいろいろなことを考えました。衰弱しているハクにどこまで治療を続けるべきなのか、できることは全てしたいと思う自分の気持ちは本当に正しいのか。何が最善なのかわからず、ずっと気持ちが揺らいでいました。
『ハクちゃんもまだまだ美味しいもの食べたり、一緒にいたいと思ってると思いますよ。』と主治医の先生は静かに言いました。その言葉に頷いたら涙が床にポトと落ちました。
大学生になった年、1997年の秋、20才の時にハクはやってきました。ハクと暮らした12年間は、人生でもっとも多感で、もっとも雑多な時期だったでしょう。親元を離れた一人暮らしで、昼夜の境目もない生活を過ごしていました。
ハクがまだ元気だった頃から、いつかは訪れる別れに怯えていました。不安が訪れた時は、ハクのふかふかの体毛に顔を埋めて、両腕で体を強く抱きしめながら『ずっと一緒にいようナ。』と口に出して呟きました。やがて、全ての生き物は死を迎えるという動かしようのないゲンジツを思い、自分が先に死ぬよりも良いのだと気持ちを鎮めていました。
ハクが永眠した日も、翌日霊園に連れて行った日も、友人が付き添ってくれました。あやKはカラフルな花でバスケットの棺をデコレーションをしてくれ、あきCはハクの大好物を詰めたリボンかけのお弁当を棺に入れてくれました。
あの真っ白でふかふかとした体に二度と触れることができないと思うと、悲しくて悲しくて霊園からの帰り道は声を上げて泣きました。
しかし、予想もしなかったことに、あらゆる事象がハクとの別れを辛いだけにはしませんでした。
信頼できる先生方にハクを診てもらえたこと、諦めていた輸血が一度は叶ったこと、病状を心配してくれる友人達がいたこと、ブログに沢山のコメントをいただいたこと。友人達の贈ってくれた花がこの部屋で柔らかに香っていたこと。
もう息をしていなかったけれどハクとこの部屋で一晩一緒に眠れたこと。
ハクが可愛いハクのままで旅立ったこと。
冬が来れば、ハクのいない布団の隙間を持て余すし、ファンヒーターの前のハクの定位置を眺めてしまいます。台所に立てば、さわさわと足元にまとわりつく感触が恋しくなります。腕に点滴をしていたのに遠慮して、入院中はハクを抱きしめなかったけれど、体の半分でも抱きしめればよかったと後悔しています。
ハクはブログにもよく登場していました。ハクはもうこの部屋にいませんが、ハクの話題が出ないこの場所(ブログ)がずっと奇妙でした。たとえブログ上でも、ハクという猫がいたことを誰かが知っていてくれるのは本当に幸せなことだと思っています。だからいつかはここでハクの最後の記事を書きたいと思っていました。寂しさと向き合うのが嫌で書けなかった記事も、半年が経ち、ようやく報告することができます。
ハク。お前のおかげでずっと幸せだったよ。
ありがとうありがとうありがとう。
また、会おうね。
本日の1曲
恋はいつも幻のように / ホフディラン
▼ 関連エントリー
ハクが入院している間『デイ・バイ・デイ』で病状の経過を毎日報告していました。
8月16日から8月31日までの記録は8月のアーカイブからご覧いただけます。
●デイ・バイ・デイ 8月のアーカイブ
ハクとの出会いのエピソードや暮らしの様子は「愛しのハク」カテゴリーでご覧いただけます。
●リヴィング・トーキョー 「愛しのハク」カテゴリー
2008/03/01 『
愛しのハク 〜北風とナーバスな猫、編〜』
2007/11/18 『
愛しのハク 〜ぼく達のささやかな10年編〜』
2007/06/20 『
愛しのハク 〜クッションのあたたかな凹み編〜』
2006/12/11 『
愛しのハク 〜純白のファッショニスタ編〜』
2006/11/26 『
愛しのハク 〜我が家の冬支度編〜』
2006/11/09 『
愛しのハク 〜のっぴきならないお出かけ編〜』
2006/10/27 『
愛しのハク 〜オレ関せず編〜』
2006/10/11 『
愛しのハク 〜ハクの宅急便編〜』
2006/09/29 『
愛しのハク 〜研いで、候。編〜』
2006/08/11 『
愛しのハク 〜3時間のショートトリップ編〜』
2006/07/18 『
愛しのハク 〜人知れずタフネス編〜』
2006/07/04 『
愛しのハク 〜勝手にしやがれ編〜』
2006/06/11 『
愛しのハク 〜飼い猫も潤う6月編〜』
2006/05/03 『
愛しのハク 〜おかか純情編〜』
2006/04/10 『
愛しのハク 〜違いのわかるオトコ編〜』
2006/03/16 『
愛しのハク 〜眠れぬ夜は君のせい編〜』
2006/03/01 『
愛しのハク 〜MY CAT LOST編〜』
2006/02/11 『
愛しのハク 〜ルームメイトは白猫氏編〜』
3月 1st, 2008 by taso
机に乗ってものを落とす。
観葉植物の茎を折る。
皿の隅のキャットフードは残す。
そんな風でも文句を言われないので、これからもその癖はきっと直らない。まあ、それでも良い。
ペットとの関わり方は親子のそれによく似ていると思う。
例えば、ぺットに洋服を着せる人は、子供にも洋服を沢山買い揃えそうだし、小さくて高価な缶詰をペットに与える人は、スーパーマーケットのお惣菜で子供を育てないような気がする。
育てるという行為は、育てる人の価値観を反映する。それが猫であっても人間であっても、きっと大差は無い。
我が家のハク氏に対しては、何かをしつけた覚えが無い。(トイレの習慣は、うちにやってきた時にもう身に付いていたみたいだった)考えてみれば自分とハクとの関係は、自分と親の関係に似ていなくもない。しかし両親と大きく違うのは、自分がひどくだらしないところだ。
先日、ハク氏を半日動物病院に預けた。その医院には以前一度預かってもらったことがある。前日に電話を掛けて予約をしたというのに、当日訪れると院内の誰にもそれが伝わっていなかった。
ペットを預けるときには感染症を避けるため、一年以内に受けたワクチン接種の証明書を提示しなくてはならない。しかしその日は証明書を自宅に忘れてしまった。
確か1年前くらいに予防摂取をしたはずだったけれど、それが一年以内である証拠がない。数人のスタッフと獣医氏は、待合室にいる自分とハクの入ったキャリーバッグを交互に見た。
受付カウンターに置いてある病院名の入ったプレートを見ると、昨日予約した医院となんだか名前が違う。同じ町内の違う病院に予約を入れていたのだ。
予約無。ワクチン証明書無。診察券も忘れた。足元に置いたキャリーバッグから、不安そうな愛猫の鳴き声が聞こえる。こちらが途方に暮れていると、獣医氏がしぶしぶ頷いてくれた。
家までの帰り道、いぶかしげな獣医氏の顔や、他の動物の気配に身を縮めるハク氏の姿を思うと、次第に早足になった。いくらこちらが説得したところで、ハクの安全性を証明できるものがない。擦り切れたジーンズにニット帽という姿ではさらに説得力に欠けていたかもしれないなどと、どうしようもないことを考える。
証明書は机の引き出しに無造作に閉まってあった。そして案の定、前回の摂取日から1年が経過していた。これでまたハク氏の立場が悪くなってしまった。病院に電話をかけ、恐縮しながらワクチンの接種を依頼した。今ハクの潔白を証明できるのは3種混合ワクチンしかない気がした。
引取りの時間が来て迎えにいくと、ハク氏は身体を硬くして唸り続けていた。獣医氏は「ナーバスになってるみたいですね。」と言った。知らない人に囲まれて注射まで打たれたのだから仕方がない。
住み処を点々とする一人暮らしに加えて、(幸運なことに)病を患うこともあまりなかった。だから東京にはハク氏のカルテがない。一歩外に出れば、ハクの身元を証明できるのはこの頼りない自分だけなのだ。
日の暮れた路地を歩きながら、その日一度でも彼が疑いの目に晒されたことにいたたまれない気持ちになった。こうして “子供” は、親のだらしなさに時々巻き込まれてしまう。冷たい風がなるべく入らないように、ナーバスな猫が入ったバッグを抱きかかえて家に帰った。
本日の1曲
About You / Teenage Fanclub

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2007/11/18 『愛しのハク 〜ぼく達のささやかな10年編〜』
2007/06/20 『愛しのハク 〜クッションのあたたかな凹み編〜』
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2006/03/01 『愛しのハク 〜MY CAT LOST編〜』
2006/02/11 『愛しのハク 〜ルームメイトは白猫氏編〜』
6月 20th, 2007 by taso
一人暮しで猫を飼っていると言うと、『じゃあ家に居ないときはどうしてるの?』と聞く人は多い。不思議と猫の品種や名前の話にはなりにくい。ハクと暮らして10年、何度このやりとりが行われただろう?
それに留守中の飼い猫の様子は誰にもわからないから、頻繁に繰り返されるその質問にはいつまで経っても答えがでない。一体何をしているんだろう。
外出する時は、キャットフードと水の量をチェックし、必ず猫の姿を確認してから家を出る。それから(聞いていようがいまいが)猫に向かって『行ってくるよ』と声を掛ける。
ウィークデイには最低でも12時間は家を空ける。出掛ける時にはそれなりに気を配らなくてはいけない。猫が落ちないよう洗濯機の蓋を閉め、いたずらされたくないものは隠すか片付ける。部屋の空気が篭らないように浴室の窓を開け、カーテンとブラインドで室内の明るさを調節する。そうした一連の流れは身に染みついていて、身支度のついでにほとんど無意識に行われる。
ハクにとって留守番は普通のことであり、出掛ける寸前に甘えて困ることもほとんどない。今や、鞄を持って玄関に向かう飼い主をちらっと横目で見遣るのみで大して気にしている様子もない。・・・慣れたものだ。
玄関のドアがばたんと閉まった時から、半日に及ぶ猫の留守番が始まる。こちらが自動改札を通り抜ける頃、彼はおもむろに居眠りを再開したり、思い付いたように用を足したり、昨日と違うフードの味見を始めたりするんだろう。
人間は仕事、猫は留守番。なにしろハクの留守番歴も今年で10年になる。
しかし部屋に残された愛猫を思うと、ちょっと落ち着かない気分になるのは今も変わらない。誰も居ない部屋に爪研ぎの音を響かせ、時折部屋を迂回して遊び相手を探しているんだろう。
猫氏は消し忘れた家電のスイッチを切ってくれるわけではないし、なにかあったら携帯に電話をよこすわけでもない。ハクと暮らしだしてから外泊は滅多にしなくなり、用事が済んだらなるべく早く帰る人になった。
ある夜、暫くの間ハクの姿を見ていないことに気付いた。名前を呼んでも返事がない。心配になり姿を探すと、狭い隙間から出られなくなって暗がりでじっと息を潜めていた。こちらの手助けがなくてはどうにも脱出不可能な事態だった。
友人氏は『そういうのは、誰か居る時にやるって決めてんだよ』とちょっと感心したように言った。そうか。「成功するかわからないチャレンジ」は飼い主の在宅中にやっとくルールを会得したのか。
玄関を開けると、いつもそこにハクが待っている。足音がするたびにここに来ているのか、飼い主の足音を聞き分けられるのか。
さっきまでハクが寝ていたと思われる温かなクッションの凹みに手を当ててはなんとなく彼の留守番を想像したりする。
本日の1曲
今日はなんだか / SUGAR BABE
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2006/12/11 『愛しのハク 〜純白のファッショニスタ編〜』
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12月 11th, 2006 by taso
カラフルな輸入物のおもちゃや美味しそうなおやつ。自動給水機能のついた水飲みトレイにふかふかのベッド。
動物と暮らす人間にとってペットグッズ売り場はやはり楽しい。
我が家で留守番をしている愛猫ハク氏に思いを馳せながら売り場を見物しているとペット用の靴下を見つけた。1セット4足の小さなニットの靴下だった。シンプルな単色からマルチボーダーまで種類も豊富だった。
友人に教えると彼女は感嘆の声をあげた。グレーと黒の縞模様の彼女の愛猫にどれが似合うかと考えあぐねている様子。彼女は靴下をつまみながら『いいよネー、白いとなんでも似合うから。』と少し羨ましそうに言った。
そうだ。我が家の白猫ハク氏は無地だからどんな柄でもそこそこ似合う。けれどきっと彼は靴下を穿きたがらないだろう。
我が家にハク氏が来て間もない頃、ペットショップで首輪を買った。売り場を右往左往し小一時間迷った末にペパーミントグリーンの革製の首輪を選んだ。
帰宅して早速ハク氏に首輪をつけてみた。当初は慣れない異物感に戸惑い、前足で首輪を掻く仕草を見せていたけれど、白い体毛にニュアンスのある色味が良く映えた。我ながら自分のセンスに脱帽した瞬間である。なかなかお洒落に見える。
首輪にもそのうち慣れるだろうと部屋をあとにした。数十分して部屋に戻ると壁際に猫氏の姿があった。彼は壁の一点を見つめ、その場に凝固していたのである。顎下から伸びた首輪の輪っかは二つの耳を押し潰し、もうどうにもならない状態になっていた。
おそらく彼は目を離したあとも、首輪を外す作業を続け、一番顔幅の広い所まで首輪をずり上げる事に成功したが、それから先がどうしても抜けなかった。猫氏は険しい表情で屈辱に耐えているように見えた。
かくしてあっさりと首輪は諦めた。なんとなく猫は首輪をするものだと思いこんでいただけで、インドアキャットである彼には元々必要なかったのかもしれない。
ハク氏は洋服も着ないし、靴下も穿かない。それ以降は真っ白のまま素っ裸の状態で暮らしている。
本日の1曲
Snowscape / the band apart
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2006/11/26 『愛しのハク 〜我が家の冬支度編〜』
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