愛しのハク 〜オレ関せず編〜

見舞いに来た同僚氏はいちご味のオブラートに薬を丁寧に包んでくれていた。彼女が慎重に薬をオブラートへ注いでいる時、愛猫ハク氏が背後から忍び寄ってくるのが見えた。
ハク氏は何かを「開封する」音を無視できない。到底食べられないものにもニャーニャー鳴いてよこせという。それがパソコン用の増設メモリや、お得用歯間ブラシであってもだ。

嫌な予感がした。そして次の瞬間、猫氏のチョップのせいで机に無惨に散る薬。猫はいかなる場合も好奇心が勝ってしまう。たとえ飼い主が床に伏せていても。

数日前の朝、吐き気で目が覚めた10分後には激しい嘔吐。自己記録を更新しそうな高熱で頭はフラフラ。内臓から沸き起こるような腹痛で起き上がることもできず、吐きすぎて顔が痛い。
勤務先に欠勤報告をして、ベッドに横になる。横になっても身体が痛い。その状態で見た夢は妙に哲学ライクでちっとも休まらなかった。

午後に突然同僚氏が部屋に訪れた。病院に連行され、腹部エコーをぐりぐりされる。薬を5種処方された。「腸が風邪をひいたのに近い」という曖昧なニュアンスの診断になんとなく納得し帰宅する。

同僚氏はたまっていた皿を洗い、どこにあるかわからない保険証を一緒に探し、差し入れのヨーグルトやスポーツ飲料を冷蔵庫にしまった。夜は鰹節で丁寧にダシを取った美味しい梅おかゆを作ってくれた。

その時室内に充満する鰹節の香りに猫氏はソワソワしていた。うらめしそうに背後から調理の過程を見つめ、おもむろに鳴いてみたりしている。挙げ句の果てには用済みの鰹節の出がらしを求めて三角コーナーに顔を突っ込んでいる。

猫氏はいつも我関せず的な態度である。薬を飲むために用意したコップの水に手を突っ込み、腹が痛いとうずくまっていれば腹の上を歩く。
こっちは病気なんだぞ。朝からのたうち回っていたじゃないか。と言ってみたところで無駄なのだ。こんな時の猫の無邪気さは身に染みて愛しい。


本日の1曲
青葉コック / SAKEROCK


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