愛しのハク 〜人知れずタフネス編〜

猫氏と暮らしていると、家の中であっても思いがけないハプニングが起こる。
人間と別行動を決め込んでいる彼の行動を常に気にしているわけではないにしても、姿が見えなくなって数時間経つとさすがに不安になり、広くもない部屋の中をアタフタと探し回ることがある。

その日も数時間猫氏を見ていなかった。押入の布団の間や、机の下などお気に入りの場所を探してみるがやはりいない。
聴いていた音楽を止めると、天井裏からなにか音がする。頭上で何かが移動する足音が聞こえた。
・・・もしや。

当時住んでいた古いアパートは立て付けが悪く、押入の上部の天井板がずれていた。気付いてから修繕を試みたりしたがどうにも直すことができずにそのままになっていたのだが、あろうことかその僅かな隙間から猫氏が天井裏に侵入してしまった。

隙間から名前を呼ぶと確かに鳴き声が聞こえた。天井裏に人間が入る術など思いつくわけもない。逃げたいのか戻りたいのか判断はつかないが、梁にでも挟まったら助ける方法はない。そうして自分で想像してしまった悲劇に自ら焦る。

部屋を歩き回りながら名前を呼び続け、苦し紛れのおかかパカパカ作戦を興じ、ようやくハク氏が顔を出した。無事に部屋に帰還した真っ白い体が屋根裏のホコリで汚れ、まるで煙突掃除でもしてきたみたいだった。予想もしなかった事態に疲労困憊でグッタリ疲れてしまった。

またある夜はインターネットに興じていると、奥の部屋からうなり声が聞こえてきた。猫と暮らす人にはわかっていただけると思うけれど、猫も寝言を言う。何かを言いたそうに低い声でうなることがある。
また寝言か、とさして気にせずにディスプレイを見つめ続けていると、だんだんそのうなり声が大きくなってきた。当初微かに聞こえた『ぅー・・・ぅー・・・』が、『うわーぉお・・うぅ〜まぁ〜うぅ〜』とヒートアップしてきた。何事か!?慌てて猫氏の元へ駆け寄る。

しかしスフィンクススタイルでコンポの上に寝そべっている猫氏を見ても、不自然な体勢というわけでもない。しかし鳴き声は徐々に大きくなっていく。よく見ると、猫氏の爪がコンポの通気網に引っかかっているようだ。彼は爪が外れずに身動きが取れなくなっていた。

さて。どうするか。
時刻は真夜中で、駆け込む動物病院のあてもない。病院に行くにしてもコンポごと運ばなければならず、猫氏もかなりの苦痛を強いられるだろう。腕組みをして次々に計画を練っている間も猫氏は雄叫びを続けている。

駄目元で猫氏を持ち上げてみることにした。意を決して胴体を抱え、垂直に持ち上げる!

するとかちっという音がして爪が外れ、いとも簡単に持ち上がってしまった。
・・・この上ないアッサリとした結末に一番驚いていたのは猫氏だった。床に降ろした後はポカンとしていた。頭の上にビックリマークが浮かんでいた。体裁が悪いのか、必死に顔を洗ってごまかしている。そう、猫氏はごまかす。そして何事もなかったかのように彼の普段の生活が再開された。騒ぎ立てた時間はなんだったのだろうか。

現在の部屋は屋根裏に侵入できるスペースもないし、コンポも他の場所に移動した。動物は飼い主が知らない間にとてつもなくハードな状況に陥っていることがある。こちらが想像もしない困難に。
だから外出先でも心配になる。携帯の画面で現在の我が家の状況を確認できるシステムを導入したいところだが、そんなもの持っていたら猫氏が気になって仕事どころではなくなりそうで、また悩む。


本日の1曲
男子畢生危機一髪 / eastern youth


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