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修理に憧れて


▼ 修理データ
持込店舗:クラチカ渋谷店/修理内容:両ハンドル、フチ部分の革交換/
修理費用:6,600円/修理期間:約3週間


父親が会社から帰ってくると、いつも鍵の揺れる音がした。父親のキーケースは革製で、中に5つくらいの鍵がつけられる金具がついていた。子供の頃から父親は同じキーケースを使い続けていた。今でもまだ使っていると思う。

中学生くらいになり、ルイ・ヴィトンというブランドを知った。そして、父親のキーケースも同じ柄をしていることに気がついた。当時はブランドもののバッグや赤い口紅がトレンディーだった。どうして大人はみんな同じような柄のバッグを持つのだろう? 自分の父親まで。

父親は20代の時にそのキーケースを買ったらしかった。当時の父親は40代半ばだったので、計算すると『父親の20代』といえば、『ひと昔前』だった。父親は、そのキーケースを何度か修理に出したことがあると言った。そう言われてあらためて観察すると、縫い目には所々細かなほつれがあった。でも革は艶やかで柔らかく手に馴染み、金具は金色に光っていた。

ブランドというものを見る目が変わった日だった。それは(多分父親が思っているよりもずっと)自分を驚かせた。そして、父親のようにものを修理して長く使うことに憧れるようになった。

大学生の時、おばあちゃんに買ってもらったヌメ革のトートバッグは、お気に入りの鞄だった。雨風も気にせず、特別な手入れもせずに使い倒し、ほつれや革のひび割れがひどくなっていつしか使わなくなった。

あの大きさなら、弁当箱や水筒も楽に入るな。底についたジッパーを開ければ、簡単に容量が増えるところも使い勝手がいいぞ。ジム通いの日にはTシャツも入りそうだし。
理想の鞄を考えれば、結局その鞄に行き着いてしまう。

だから、長い間しまったままになっていたトートバッグを引っ張りだした。まずは直営店に電話をして、店舗に鞄を持ち込む。修理品は職人の元へ送られ、一週間後に見積りの電話連絡がきた。それからまた二週間で修理は完了した。

ハンドルとフチの真新しい革は、ハリがあって若々しい。肩への掛け心地や鞄の重みも懐かしく感じる。
とうとう20代でルイ・ヴィトンを持つことはなかったけれど、(ルイ・ヴィトンではないにしろ)、直してまで使いたいと思わせる鞄に出会って、修理ができたことは少し特別な出来事だった。


本日の1曲
Doin’ It / Wagner Love
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2 Responses to “修理に憧れて”


  1. 1Inucco

    高価=ブランド=上質な物。私のイメージです。
    いいものを長く使う。原価償却てきには一日の単価は安いのかも?
    節約家ならぬケチケチ家(ケチケチ弁当はお得意です)の私は、修理大好き。ブーツもバッグも15年もの多数です。

    それにしてもTasoさんのバッグ。懐かしか~

  2. 2taso

    >Inuccoさん
    15年ものが多数とはすごいね!
    修理して長く使えるものを選びたいし、
    その心構えがある販売店の商品を選びたいものです。
    買ったその時で終わらない買い物がしたい。

    このバッグ覚えててくれたんだね。
    使ってない時期はあったけど「12年もの」くらいにはなるかな!

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