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森山大道写真展『銀座/DIGITAL』

森山大道はいつもコンパクトカメラで路上を撮影してきた。彼の長年のメインカメラはリコー製のコンパクトカメラ「GR」である。

彼の影響でGRを手にした人は多いと思う。敬愛する写真家と同じカメラが使えるなら、それを選ばないわけにはいかない。そんな動機でGRを購入したのは大学生の時、もう10年近く前のことになる。

そういえば、GRを購入した当初は「リコーってカメラ作ってるの?」とよく言われたものだ。リコーのイメージが「オフィス用光学機器のメーカー」から「高級コンパクトカメラのメーカー」に劇的に変わったのは、名機GRで作品を発表し続けている森山氏の影響が大きいと思う。

GRは2005年にデジタル化され、2007年には後継機のGRデジタル2が発売された。フィルム時代から比べてボディが一回り小さくなったものの、ほとんど同じ印象を与える。デジタルになっても、GRはボクトツとした外観の硬派なカメラなのである。

いつもモノクロフィルムを装填している森山氏が、今回初めてデジタルカメラ(GRデジタル2とGX200)を使った作品展を開催した。森山大道がデジタルを使う、これはファンにとっては大きなニュースである。

会場のRING CUBEはそれ自体が円形のビルディングで、ギャラリーの真ん中にある巨大な柱のような壁面に隙間なく作品が貼り付けられていた。作品を背にすれば、曲面を描くガラス窓から銀座4丁目交差点を見下ろすことができる。

銀座の街は外国のような雰囲気を持っていると思う。歴史ある建物は重厚で、質の良い洋服をまとった人が老舗デパートを行き交っている。最近では若者向けの店舗が増えたとはいえ、人々が銀座という地に抱く憧憬は根強いように思う。

毛皮をまとった女性の姿や、ショーウインドーに飾られたけばけばしい衣装の写真は銀座が歓楽街であることを思い出させる。
マネキンやポスターなどのイミテーション的モチーフや、女性の後ろ姿に注がれるファインダー越しの視線。シャッターや網タイツの模様を用いたグラフィカルな構成。それらはまさに “ダイドー的な” 写真であり、見慣れないはずのカラー写真も意外なほど違和感がなかった。

21mmの広角レンズは街の形相を俯瞰するに相応しい。標準レンズを装着した一眼レフとGRがあれば撮りたいものはたいてい撮れる。標準レンズでは入りきらない景色を撮りたければポケットからさっとGRを取り出して撮影すればよい。フレキシブルで写りも良く、ストリートスナップに適したカメラなのだ。

学生時代にはカメラを持ち歩かないと不安だった。いつどこで撮りたいものに出くわすかわからないからだ。そんな時もGRだったらさっとポケットに忍ばせることができるし、予備カメラとしてカバンに常駐させておいても良い。

展示数の少ないカラー写真の下地としてモノクロ写真の女性の顔が敷き詰められていた。存在感のあるこのマチエールがなかったらあの空間は随分淡白になっていただろうと思う。

空間を操るのは作家の意思だ。多くない作品数と特殊な会場の形態で写真の組み方が際立つ。小規模のギャラリーならではの、空間構成の妙を感じる展覧会だった。

本日の1曲
Alison / Holly Cole

森山大道写真展「銀座/DIGTAL」
http://www.ricoh.co.jp/dc/ringcube/event/daido_vol2.html
【 展覧会情報 】
■ 会 期:2009年1月7日(水)~2月1日(日) 11:00~20:00
■ 休館日:火曜日
■ 会 場:RING CUBE
      東京都中央区銀座5-7-2 三愛ドリームセンター8.9F
■ 料 金:無料

森山大道展 レトロスペクティヴ 1965-2005/ハワイ @東京都写真美術館

週末の会場は若者で溢れていた。今年70歳になる写真家の展覧会にしては客層が若い。やはり自分のように、ダイドーに写真への目覚めを奪われた人たちなのかと勘ぐってしまう。
初めて森山大道の作品に触れたのは10年以上前。当時は美術予備校で浪人していて、作品の資料にと読んでいた雑誌で写真集『Daido-hysteric』の存在を知った。

あのヒステリックグラマーが写真集を出版したというニュースに加えて、これまでの「モノクロ写真は繊細でトーンが淡い」という思い込みの、まさに真逆をいく衝撃の写真が飛び込んできた。
艶めいた街は匂い立つ色気を感じさせたし、ハイコントラストの黒々と焼かれた写真はグラフィカルな印象を与えもした。しばしその頁に釘付けになった。

大学に入ると、時々暗室に入るようになった。現像液の温度を上げ、長めに露光してダイドーもどきの写真を焼いた。要するにどっぷりとカブれてしまったのだが、仕上がりを自分の勘に頼る現像作業は最高にエキサイティングだった。(そのせいで写真の授業が退屈で仕方なかったのだけれど)

その出会いから10年以上、森山大道はずっと特別な作家であり続けている。

今回の展示はレトロスペクティヴ1965-2005(3F展示室)と最新作『ハワイ』(2F展示室)の二部構成になっている。まずはエレベーターで3Fに上がった。

アシスタントから独立後、写真雑誌への初掲載となった《ヨコスカ》(1965)から『ブエノスアイレス』(2005)までが年代順に並ぶ様は壮観である。
入場してすぐの壁には、いきなりホルマリン漬けの胎児を撮影した《無言劇》と、寺山修司と共に旅芸人を撮影したシリーズ《にっぽん劇場》が展示されていた。年代順に並んでいるので当然なのだが、入館して早々の出迎えに一層期待が高まる。

壁に展示されたプリントはもとより、ガラスのケースに納められた雑誌や写真集を凝視せずにいられない。

ポスターやテレビ画面を撮影し、自分名義の作品としたことで物議を醸し出した連載《アクシデント》(69年・アサヒカメラ)や、盟友・中平宅馬氏も参加した同人誌『プロヴォーグ』(68-72年)、対象を写さない手法を用いた挑発的な『写真よさようなら』(72年)などは、刊行当時を知らない若い大道ファンなら思わず息を飲む伝説の品々だろう。

艶めかしいタンゴのリズムと石畳の路上。レトロスペクティヴ最後の壁面を飾った『ブエノスアイレス』は森山氏らしい色気に満ちていた。ブエノスアイレスに抱くイメージと森山氏の持つ世界観は密に通じ合っている。カメラだけを持ち異国を訪ねることはなんて素晴らしいんだろう。

森山氏が次の撮影地にハワイを選んだということを聞いたとき、子供の頃に抱いたハワイへの憧れが懐かしく思い出された。ひと昔前までは、海外旅行といえばハワイだった。その憧憬は、端がめくれて色褪せたポスターのように懐かしい。

そして今回、森山氏による『ハワイ』の大型プリントを初めて見、撮影地としてのハワイという選択が大当たりだったことを確信した。陽光にぎらつくオートバイや、乾いたアスファルトの路上など、まさに大道的なモチーフが並ぶ。それは自分が突き動かされるものに忠実に、心引かれる景色に向かってただ歩く、という氏の確固たるスタンスを感じさせた。

ぼくはね、昔からあまり仕事というか、注文がないんだよ。たまには雑誌の仕事がなくもないけれど、あまりないんだ。(中略)
それで何をやっているかというと、コンパクトカメラをいつもジーパンのお尻のポケットに入れて街をうろつき歩く。それがぼくの写真生活のパターンなんだよ。パターンというか、ぼくが写真に関わるほぼ全部なんだよ。

ー対話集『 昼の学校 夜の学校 』より

撮影された場所は、単なるキャプションでしかない。ハワイ・ブエノスアイレス・新宿・大阪。素っ気ないほどの写真集のタイトルが、彼の写真との関わりかたを代弁しているような気がする。

だから今回も、森山大道はただハワイに降り立っただけなのだ。そしてハワイという楽園はその楽園たる所以( __ 熱帯植物の艶めかしい姿や、日焼けした人々が押し寄せるビーチ)を含みながら、そこに在っただけなのだ。

ハワイの作品群を観終えたとき、森山氏がハワイを選んだことが奇跡のように思えてならなかった。本人の言葉を借りれば、森山大道は「モノクロームのハワイを作った」のだった。

本日の1曲
The Greatest / Cat Power

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【 展覧会情報 】
■ 会 期:2008年5月13日(火)→6月29日(日)
■ 休館日:毎週月曜日(休館日が祝日・振替休日の場合はその翌日)
■ 会 場:東京都写真美術館 2・3階展示室
■ 料 金:一般 1,100(880)円/学生 900(720)円/中高生・65歳以上 700(560)円
※( )は20名以上の団体料金
※小学生以下および障害者手帳をお持ちの方とその介護者は無料
※第3水曜日は65歳以上無料

【 森山大道に関するおすすめ書籍 】

■ 昼の学校 夜の学校
写真を学ぶ学生との対話を通じて、自らの
歴史を語り、写真への思いを語る。
ひとつひとつの質問に丁寧に回答していく
氏の発言に独特の写真論、その価値観に森
山大道的なエッセンスを感じるファン必読
の書。日々の生活の様子など評論家が今更
聞けない率直な質問があって面白い。

■ 犬の記憶 終章 (河出文庫)
文庫版のあとがきを執筆したのは、ヒステ
リックグラマーの北村信彦。森山氏へのラ
ブレターともいえる素直すぎる文章が微笑
ましい。
素晴らしいエッセイを紹介したくて先日友
人氏に文庫版を贈答。所有しているのは単
行本のため、あとがきを読んでから手渡し。

【 メディア情報 】
■ 美の世界(1996年2月24日放送)
「写真家 森山大道 1996 〜路上の犬は何を見た?〜」
第2日本テレビにて放送中

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2006/03/21 『森山大道 〜野良犬の目線〜』