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愛しのハク 〜北風とナーバスな猫、編〜

机に乗ってものを落とす。
観葉植物の茎を折る。
皿の隅のキャットフードは残す。

そんな風でも文句を言われないので、これからもその癖はきっと直らない。まあ、それでも良い。

ペットとの関わり方は親子のそれによく似ていると思う。
例えば、ぺットに洋服を着せる人は、子供にも洋服を沢山買い揃えそうだし、小さくて高価な缶詰をペットに与える人は、スーパーマーケットのお惣菜で子供を育てないような気がする。
育てるという行為は、育てる人の価値観を反映する。それが猫であっても人間であっても、きっと大差は無い。

我が家のハク氏に対しては、何かをしつけた覚えが無い。(トイレの習慣は、うちにやってきた時にもう身に付いていたみたいだった)考えてみれば自分とハクとの関係は、自分と親の関係に似ていなくもない。しかし両親と大きく違うのは、自分がひどくだらしないところだ。

先日、ハク氏を半日動物病院に預けた。その医院には以前一度預かってもらったことがある。前日に電話を掛けて予約をしたというのに、当日訪れると院内の誰にもそれが伝わっていなかった。

ペットを預けるときには感染症を避けるため、一年以内に受けたワクチン接種の証明書を提示しなくてはならない。しかしその日は証明書を自宅に忘れてしまった。
確か1年前くらいに予防摂取をしたはずだったけれど、それが一年以内である証拠がない。数人のスタッフと獣医氏は、待合室にいる自分とハクの入ったキャリーバッグを交互に見た。

受付カウンターに置いてある病院名の入ったプレートを見ると、昨日予約した医院となんだか名前が違う。同じ町内の違う病院に予約を入れていたのだ。

予約無。ワクチン証明書無。診察券も忘れた。足元に置いたキャリーバッグから、不安そうな愛猫の鳴き声が聞こえる。こちらが途方に暮れていると、獣医氏がしぶしぶ頷いてくれた。

家までの帰り道、いぶかしげな獣医氏の顔や、他の動物の気配に身を縮めるハク氏の姿を思うと、次第に早足になった。いくらこちらが説得したところで、ハクの安全性を証明できるものがない。擦り切れたジーンズにニット帽という姿ではさらに説得力に欠けていたかもしれないなどと、どうしようもないことを考える。

証明書は机の引き出しに無造作に閉まってあった。そして案の定、前回の摂取日から1年が経過していた。これでまたハク氏の立場が悪くなってしまった。病院に電話をかけ、恐縮しながらワクチンの接種を依頼した。今ハクの潔白を証明できるのは3種混合ワクチンしかない気がした。

引取りの時間が来て迎えにいくと、ハク氏は身体を硬くして唸り続けていた。獣医氏は「ナーバスになってるみたいですね。」と言った。知らない人に囲まれて注射まで打たれたのだから仕方がない。

住み処を点々とする一人暮らしに加えて、(幸運なことに)病を患うこともあまりなかった。だから東京にはハク氏のカルテがない。一歩外に出れば、ハクの身元を証明できるのはこの頼りない自分だけなのだ。

日の暮れた路地を歩きながら、その日一度でも彼が疑いの目に晒されたことにいたたまれない気持ちになった。こうして “子供” は、親のだらしなさに時々巻き込まれてしまう。冷たい風がなるべく入らないように、ナーバスな猫が入ったバッグを抱きかかえて家に帰った。


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