Archive for the '黄昏コラム' Category

黒いあんちくしょう

自宅近くの通りを歩いていたら、今年初めてあいつにでくわした。名称を記載するのもためらわれる程存在に脅えている為、ここでは仮名で呼ばせていただく。(神話の登場人物名称を拝借)

これまで何度もラボルト(仮)に遭遇してきた。毎晩のように部屋にやってくる訪問者を恐れて、バルサンを焚いて部屋を飛び出したはいいが、退治できちゃっていることを考えると部屋に戻れなくなり、用事のない大学に行きクラスメイトに助けを求めに行ったこともある。
不意にマルス(仮)が現れた晩は、ほとんど部屋着のまま明大前の友人宅に駆け込んだこともある。当時住んでいた小平から明大前まではほぼ1時間かかるが、ちょうど連絡のついた友人宅へ逃げ込んだのだろう。

部屋にアグリッパ(仮)が現れると、確実に無駄になる数時間。直前まで楽しい気分でいたことすら一瞬で過去の話になる。一度遭遇すると、その夏は恐怖の日々だ。
そこで「ゴキ包」という商品に飛びついてみた。これは始末する時にメジチ(仮)を直接見なくて済むという画期的アイテムで、噴射したムースが固まり、処分しやすくしてくれる。勿論CMで放送されていたように、そのムースですら素手で掴むことは到底無理なのだけど。

そしてある日不意にパジャント(仮)が現れた時、近くにあった「ゴキ包」を咄嗟に手に取り、壁に向かって大量噴射してしまった。この商品は絶命の後に使用する商品であり、殺傷能力はない。
モリエール(仮)がよろよろと壁を這った奇跡をチュルチュルとムースで追撃しているだけでは何の解決にもならないのだが、その時は必死だった。壁に吹き付けたムースはすぐに固まり、ボコボコと汚い痕はその後も剥がすことが出来ず、退室までその醜い痕跡と付き合うことになってしまった。

現在のマンションに越してきて3度目の夏がやってきた。1年目は何事も無く安堵した。しかし昨年の夏に下階のリフォーム工事が始まった時、嫌な予感がした。その数週間後、ついに高円寺の我が家にもラオコーン(仮)が現れてしまった。

雄叫びを上げながらのその後の騒動は今思い出しても壮絶で、思い出すだけでもグッタリ疲れてしまう。今夜は薬局で駆除グッズを購入する予定だが、スプレー缶にゲタ(仮)のイラストを施すのは是非やめていただきたい。はっきり言って恐くて握れない。

そういえば以前、新宿駅の駅ビルでエスカレーターに乗っているヘルメス(仮)を見た。エスカレーターの凸凹の凸の部分に器用に乗っかって移動していた。彼らは文明の利器すら利用して我々の前にやってくる。


本日の1曲
Blood Red Summer / Coheed & Cambria


東京タワー、私家版

上京してから10年が経ち、その間数十回の帰省を繰り返してきた。東京駅から新幹線で静岡へ。静岡からは東海道線に乗り換えて島田駅まで約30分。その道程はいつも変わることがない。
そしてこの移動は自分を混乱させる。特に帰り道、実家から東京の一人暮らしの住まいへ戻る道程は。

静岡を発車した新幹線が東京へ向かう。トンネルばかりの熱海を越えたら神奈川県に差し掛かる。新横浜で大勢の客が下車し、品川でさらに乗客は半分程になる。
新幹線は山手線と並行に走り、速度を落として線路を滑る。ごった返す駅のホームがよく見える。

東京の自宅から帰省する時も、実家から東京に戻るのもいつも夜遅い。瞬く電飾の看板と、ビルの中で仕事をする人の影を眺める。そして左側の車窓からは東京タワーが見える。赤々と、夜空にそびえ立っている。

田舎から電車で東京に戻ってくる時の一種の感慨は地方出身者なら心あたりがあるはずだ。
『まだ若い頃、電車がトンネルに入って窓に映る自分の顔を見る度に、自分が何も成長していないのにまた東京に帰って来てしまった…と思うんです。』ある俳優はそう言っていた。

生活のベースは全て東京にある。帰省したところで懐かしい友人に会うわけでもないし、生活感が欠落した自室に居ても落ち着かないだけだ。生活リズムの違う家族と顔を合わせるのは一日のうち数時間でそれ以外は部屋で読書をするか、思い立って近所にドライブに出掛けるくらいだ。

今や自宅のある東京はどこよりも居心地がいい。街中に溢れる情報で不便を感じなくて済むし、求める商品はほとんど手に入る。
東京にこだわるのは、ただその空気が自分の存在を許してくれるような気がするからだ。しかし今の自分にここに住む理由はあるだろうか。自分の存在を許してもらいたいがためにここに戻って来たのではないか。結局は家族のことや、今の自分の状況を、街の雑踏で掻き消しているだけなのだ。

実家に帰り家族の顔を見て安心する。東京に戻れば残業の無い仕事があり、いくつかの趣味を楽しむことができる。しかしその生活は本当にしたかった生活だろうか?

そんなことをぐるぐると考えている時、いつも通りに左手に東京タワーが現れる。東京駅に降り立てば、先程までの不安も意識のどこかへ追いやられてしまう。自宅に戻り部屋に窓を開け篭った空気を入れ替える。たまったメールチェックをしたら、雑踏に安堵したことすら忘れている。

そして帰省する前と時間軸が繋がったような自然さで東京の生活に戻っていく。東京タワーはつかの間の、しかし延々繰り返されるかに思われるその困惑を思い出させる。


本日の1曲
Champagne Supernova / Oasis



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3/29 『リリー・フランキー 『東京タワー』


Tokyo Midtown 只今建設中

昨夜、友人の芝居を見に六本木へ上陸。大江戸線六本木駅を下車し、通りを赤坂方面へ歩いていく。一度見当違いの角を曲がったせいで開演時間に遅れそうだ。すると超高層ビルが視界に飛び込んできた。周りを銀盤のフェンスで覆われ、人の気配がないところをみるとどうやら建設中のようである。

建築計画の看板を眺めると、そこには『防衛庁跡地再開発』とある。敷地を一瞥し広大な土地だということがわかる。ふむふむ。オフィスビルが建ち、景気のいいIT企業なんかが入居することになるんだろうナ、と思う。

しかし完成予想図のCG写真を見ておののく。それは緑豊かな巨大施設で、まるでセントラルパークのようだった。ビルディングに何棟かが寄り添っているところをみると、六本木ヒルズ式の複合施設のようだ。自分の知らないところでそんな建築計画が進んでいるとは思ってもいなかった。

Tokyo Midtown公式サイトでその概要を知り、さらにスケールの大きさを知る。中心となる超高層Midtown Towerには上層にはリッツ・カールトンホテル、レストランゾーンやオフィス棟もあり、賃貸マンションも200戸以上ある。六本木駅から建物は地下道で直結される予定である。


サントリー美術館』は赤坂から移転するようだし、安藤忠雄設計による多目的アートスペース『21_21 DESIGN SIGHT』も興味をそそる。コンランショップがインテリアを手掛けるレストラン(写真)も併設される。

現代建築にアートはかかせない存在であるようだ。逆を言えばアート無しに現代建築は成り立たないのだろう。
Tokyo Midtownは来春、六本木にグランドオープンする。



本日の1曲
Two Months Off / Underworld


GIRL’S TALK

『女は旅行と買い物の話しかしないと思ってた。』ある友人(男性)が言った。それは約1年前に彼が居酒屋で口にした言葉である。
女が集まったところで、ロクな会話をしない。ただ、お互いに興味の無い近況を報告し合い、話題の映画の話をし、デパ地下のスウィーツの話をしている。・・・と彼がそこまで女性に悪意を持っているかはわからないが、上記の発言、言い得て妙である。

『フーン。』『ソウナンダァ。』と聞いているようなフリをして相づちを打っている。街の喫茶店で繰り広げられている女性同士の会話はその程度のものだ。最早情報交換にすらなっていない。耳に入ってくるその類いの会話を聞く度に、彼のその言葉を思い出してしまう。

彼はある友人(女性)の言葉や態度に驚いていた。彼女は、彼女の大事な女友達への「愛」を述べまくっていた。その友人がどれ程自分に必要な存在かを。
その切実な訴えに彼は驚いたのだ。それは(旅行以外の話もするんだ)という単純な驚きであったかもしれない。

彼が今まで女性についてそう感じていたということは、少なくとも彼の周りの女性達はその程度の会話で間を持たせていたということになる。そして実際に、女性達の会話はその程度のものである。
流行りものに言及し、いい人ぶりながらも結局は他人の悪口を言い、少し気に入らないことがあると執拗にまくしたてる。唾を飛ばしてけなした数分後には、本人の前でにこやかな笑顔を振りまく。

何人かの男友達と歩いていた時、ひとりが数メートル先を歩いているある友人の行動を批判した。あの時はこうすべきだったんじゃないか、といった類いの発言だったと思う。その発言を聞いた別の友人は、笑みをたたえながら彼の発言を興味深く聞き、自分の意見を述べた。そして数分後に前を歩いている当の友人に追い付くと、あっさりと先程の発言を本人に伝えてしまった。

すると前を歩いていた当の友人氏は歩幅を狭めて彼に歩み寄り、すぐさまそのことについて話し出した。彼は怒っていたのではなく、正直に自分の気持ちを話し出したのだ。表情を見る限り、彼もその件について思いを巡らせていたようだ。

意見の衝突は日常茶飯事である。それに言及せず遣り過ごしてしまうと、相手との距離は縮まらない。その一連の(たった数分の)出来事は彼らの付き合い方を象徴していた。
彼女達の日常にそんな光景は存在しない。彼女達はこっそりと人の文句を言い、相手に気付かれないように細心の注意を払っているからだ。


本日の1曲
真っ昼間ガール / Number Girl


騒ぎとは無縁の男達

強い陽射しでくっきりと影をつくる眩しい芝。そのピッチに立つ選手達を我々は4年振りに目撃している。

ワールドカップは選手にとっては勿論、世界中のフットボールファンにとっても特別な大会で、メディアの注目度も最高潮に達する。世界中の有名企業が協賛し大会は一層華々しい。

しかし試合の合間に放送されるお祭り騒ぎのコマーシャルの喧騒は選手達とは違う次元で起こっているように感じられる。選手達はコマーシャリズムとは無縁の場所にいるように思えるからだ。世間が試合結果予想に躍起になり、企業が経済効果に頭を巡らせている間も、彼等は目の前の試合に勝つことだけを考えている。

コマーシャルがあけた直後に、選手達の険しい表情が大写しされると、なんだか申し訳ない気分になってしまうのは自分だけだろうか。その険しい表情と、サポーターに扮したタレントの賑やかな素振りがどうしても結びつかない。

選手達はこの全世界的騒ぎを感じているのだろうか。もっとも、彼等はおそらく自分でも思い出せない程多くのメディアの取材を受け、インタビューに答えているはずだ。

しかしピッチに立つ選手達にそのお祭り騒ぎは無縁である。日本中が騒いでいようがいまいが、試合に勝つことしか考えていないのだから。画面の選手達は今、己との戦いに殺気立っている。
ワールドカップ関連商品や、メディアをけなしているわけではない。そもそも何も期待していない。

ただ、想像していた以上に選手達のストイックさが画面から伝わってきて、それに動揺してしまったのだ。


本日の1曲
Yahweh / U2



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5/13 『World Cupの歓喜の渦


無精者の夏

一昨日の夜にひじきを煮た。フライパンで作った状態で、キッチンに放置していた。普段は鍋から直接料理をよそう。作った料理を容器に移し替え、冷蔵庫に入れるという手間が面倒で仕方ない。

昨夜帰宅して、フライパンからひじきをよそう。空になったフライパンを流しに置いた時、菜ばしから糸がひいているのに気が付いた。
暗いキッチンの明かりを付け、皿によそったひじきを眺めるとところどころに白と緑の粉が見える。・・・カビだ。試しにこんにゃくを口に含むとぬめぬめしていて、味も発酵食品のようである。納豆やめかぶのような舌触りだ。

普段消費期限にはうるさい。人々は発酵食品の消費期限には寛容であるが、一日でも過ぎたものは捨ててしまう。
しかし、昨夜は腹が減っていた上に、日中からイメージしていた、今夜はひじき!という計画を無視できず、そのひじきを食べてしまった。ちなみに納豆もめかぶも大好物である・・・などと今更言い訳をいっても仕方が無いが、食欲には勝てないということか。

食べ終わった直後すぐに後悔した。ここまであからさまに腐っているものを食べた自分にひいてしまった。

だから夏は嫌だ。キッチンに出したままのお茶はすぐぬるくなり、買ってきた野菜はすぐに腐る。ゴミ出しを怠ると数日悪臭に悩まされる。運転を終えた洗濯機を半日後に開けると既にカビ臭いし、食べ終えた皿には小一時間で虫が寄ってくる。
手間が面倒な無精者は、夏場に疎き目にあう。


本日の1曲
Kung Fu / Ash


妄想全国TOUR

茨城(水戸ライトハウス)、千葉(千葉LOOK)、埼玉(埼玉ヘブンズロック)、神奈川(横浜BLITZ)、長野(長野JUNK BOX)、新潟(新潟フェイズ)、山梨(山梨カズーホール)、愛知(名古屋ダイアモンドホール)、大阪(なんばHATCH)、京都(京都磔磔)、兵庫(神戸チキンジョージ)、広島(広島クラブクアトロ)。

全国47都道府県で訪れたことのあるのはこれだけだ。出身地の静岡(静岡サナッシュ)と東京(下北沢SHELTER)を除くと、やはり少ない気がする。数年前に海外旅行で出国するまで、本州を一度も出た事がないという有り様だった。

しかも大体は数回訪れただけだ。茨城はつくば万博の時に一度、新潟は3年前のフジロックで一度、大学のゼミ合宿で軽井沢に一泊し、広島と京都は修学旅行で初めて行った。
関東県の千葉、神奈川、埼玉ですら1年に一度行くかは微妙なところである。山中湖の別荘に通っていた山梨と、親戚が暮らす大阪と兵庫には少し親近感があるけれど、それでもここ何年かは足を踏み入れていない。

ところで都道府県名横のカッコ内は地名から連想したライブハウスの名称だ。
あるアーティストはこの数年で全都道府県での公演を達成したそうだ。全国ツアーのスケジュールを眺めるのは興味深い。
バンドは文字通り全国を飛び回り、その上大勢のオーディエンスが待っていてくれるのだ。初めて降り立った街の見慣れない風景も、その土地の人々の日常に作用し、自分の暮らす街同様に機能しているのだと知る。

他にも四日市クラブケイオス、ダンスクラブ松下、青森クオーター、周南チキータ、佐賀ジェイルズ、徳島ジッターバグ・・・訪れたことの無い場所ばかりであるが、その名称はお馴染みである。
何かの拍子にそれらのライブハウスの写真に遭遇したりすると、なんとも不思議な気分になってしまう。商店街の中にいきなり唐突に存在したり、公民館のような風体だったりするからだ。

東京には地方出身者が多い。彼等と話す時、名産品や観光名所、そもそも地理自体に疎い自分はライブハウスの名称に随分救われている。その土地が日本列島のどの辺りに存在するのかさえあやふやな癖に、あたかもすごく知っている風に聞こえてしまう。
(そして今回何も見ないで、ライブハウスをこれだけ列挙した自分に驚いている)


本日の1曲
IGGY POP FANCLUB / Number Girl (サッポロ OMOIDE IN MY HEAD 状態)


タブレット・ジャンキー

ミントタブレット中毒になった理由は割とはっきりしている。当時、仕事で新人指導にあたっていた。喫煙した直後は吸っている本人でも嫌気が差す程口がタバコ臭い。それまで喫煙後には口をゆすぐか、お茶を飲むかしていた。
しかしあまり面識の無い新人氏と会話するとなると、それでも気が引ける。非喫煙者にとっては歓迎されないスメルである。

粒ガムも随分食べたけれど、消費量が多くしょっちゅうガム切れする。それにガムを出して捨てる行程は結構面倒だ。

その点タブレットなら短時間で溶けていちいち捨てる必要も無い。粒が小さいから口の中でも邪魔にならない。洋服についてしまった臭いはごまかせないけれど、一応のエチケットとしてミントのタブレット習慣が定着した。

当初は”喫煙直後のエチケット”だったタブレット習慣が、だんだんクセになり、タブレットジャンキーと化してしまった。今では口の中にミントが入っていないと落ち着かないくらいだ。そうして口にミントを放り込む日々が始まった。
外出先でタブレットの不在に気付くとコンビニに掛け込み、電車に乗っていて忘れたことに気付くとあたふたと到着した駅のキヨスクで購入する。

ミントタブレットはカードケース式で洋服のポケットがかさばらないMINTIAを選ぶ。おそらく10年くらい前にはBeavis and Butt-headがCMに出ていて、日本のお茶の間にあの不気味な笑い声が流れるいい時代だった。

しかしここまで立て続けに食べていると、摂取量の一日のリミットがあるのか本気で気になってくる。



本日の1曲
Pizza Man / ELLEGARDEN


『マイケル・ジャクソンと岡村靖幸。』

大学には就職課と呼ばれる棟があり、求人速報が配付されていた。新着の求人情報が印刷されたA4のプリントには募集職種、勤務地などの簡単な情報が記載されている。館内に数十台並んだiMacは全てインターネットに接続されていて、自宅にインターネット環境が無い学生はそこに貼付いて情報収集に勤しんだ。

当時新卒で採用されるチャンスだったにも関わらず、就職活動をする気は無かった。同じく気力減退も甚だしい友人と一週間に一度は就職課をひやかすが、我々に最初から応募する気は無かった。ただ周りに釣られていただけだ。

同じゼミに所属していた友人の大学ノートには、就職活動の履歴が記されていた。必要な提出書類のリストと採用までのスケジュール。不採用の連絡が来た企業のページには大きく『撃沈!!』と殴り書きがあった。ノートを見る限り、彼は連敗中であるようだった。
そんな彼も数カ月後には待望の採用通知を受け取った。聞くところによると彼は『俺はこの会社に入りたい!!』という文言が印刷されたポストカードを作成し、面接官に見せまくるという作戦に出たらしい。

彼の暴挙に飽きれると同時に、そこまでした彼をすごいと思った。何年も前から入社したくて堪らなかった会社ならともかく、数カ月前に名前を知ったような会社の面接でそんな大口は叩けない。内定はタフな人間にしか与えられないように思えた。

それでも何社かの採用試験を受けた。そのほとんどで書類選考に落ち、その度アパートのポストには『今後のご活躍をお祈り』する手紙が投函された。

学生達はこれみよがしに志望動機や入社後の展望を訴える。多くの志願者が殺到する大企業では全員を面接するのは難しいだろう。だから出来る限り書面で自分という人間をアピールしなくてはならない。履歴書の書き方や、面接の極意が書かれた書籍も買った。(下心が見えない程度にユーモアを混ぜた方がよいのではないか?)

大学生が背伸びをしたところでたかが知れているが、全ては相手に好感を持ってもらうための努力だ。一生懸命に企業の求める人材を研究し、書類を作成する。その末に不採用の手紙が来る。何度をそれを繰り返すうちに、その行程の全てが面倒になっていった。

ある会社でのグループ面接の際『好きなミュージシャンは?』との面接官の問いかけに『マイケル・ジャクソンと岡村靖幸。』と答えた女子がいた。同年代にしては少しずれている気もする。しかし面接官は彼女の真剣な答えに好感を持ったようだった。その好意を含んだ眼差しを見て一層困惑した。

『マイケル・ジャクソンと岡村靖幸。』という答えは彼の中では模範解答だったのだろうか?クリエイティブ職ならアリなのだろうか?
その帰り道。考えれば考える程わからなくなり、次第に考えている自分が嫌になってきた。そしてそれ以来、面接を受けるのをやめた。


本日の1曲
どぉなっちゃってんだよ / 岡村靖幸


ペナルティーライフ

車やバイクの乗車には違反がつきものである。普段いくら法定速度を守り、日常生活のモラルを激しく逸脱しない人間であってもだ。
数年前まで原付で東京郊外を走り回っていた。足代わりの原付には随分お世話になったけれど、困ったことに走り回れば走り回る程違反回数が増えた。

当時住んでいた小平市は警察による取り締まりが盛んに行われていた。同じようにバイクに乗る友人達もまた、頻繁に取り締まりの餌食になった。皆が一様に『田舎でケーサツが暇だからしょうがない』と負け惜しみを言う。
確かに週末の夜になると玉川上水の木の陰や、踏切近くの小屋付近には必ずと言っていい程照明を落としたパトカーが潜んでいる。(やはり暇なのだろうか)

大学時代は昼夜関係なく友人宅を行き来し、その交通手段はいつもバイクだった。こそこそと友人を後ろに乗せ、人通りのない夜道をのろのろ走っては捕まり、自宅へ帰る100メートルの道をヘルメット無しで走行しまんまとパトカーと出くわしたこともある。小平の地味な道路で、地味な違反をし続け、数千円の違反金を払い続けた。

それにペダルに両足を乗せて走行するモペットは結構目立つ。警察官に停止を命じられ、エンジンを切る。違反に心当たりが無くてもあまり気持ちの良い瞬間ではない。
巡査氏は『珍しいネェ。ヘー』とバイクを眺めているだけだ。あろうことか”珍しい”という理由で何度も警察に止められた。

一度、高円寺の自宅から新宿まで出掛けた時、山手通りと青梅街道の交差点で二段階右折無視で捕まった。不運にもその交差点の角には交番があり、何人もの巡査達に鮮やかな違反を目撃された。
(やれやれ。こっちはこれから仕事なんだぜ。バイクチェックなら帰り道にしてくれないか?)”二段階右折”は車線の多い都会のルールで、田舎道ばかり走っていた自分はその存在すら忘れていた。

それぞれの減点数は少なくても、免許更新時にはちゃんと違反者講習を受けなくてはならない。柄の悪いヤンキー氏や、やんちゃそうな若者に混じってダークな反省ビデオを見ていると、バイクに乗っている限り減点は逃れられないのだと確信する。


本日の1曲
(Splash)Turn Twist / Jimmy Eat World



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6/16 『愛車TOMOS