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アンハッピー ニューイヤー

「はまったんじゃない・・・?」と助手席の彼女がおそるおそる口にする。
そう、きっとはまっている。認めたくないけれど。
運転席のドアを開けるとすぐ下に地面が見えた。振り返ると困惑した顔の彼女もちょっとだけ傾いている。車を降りて確認したら、右タイヤが道端の溝にすっぽりはまっていた。

ついさっきまで夜の海岸通りを気持ち良くドライブしていた。
すると何かの建物の門に突き当たった。なんだ行き止まりか、とUターンをした時ガクッと車体が傾いた。そのままアクセルを踏み続けたが、空回りするばかりで動く気配はない。

面倒なことになったなと思った。
原子力発電所の門の前で、溝にはまって傾いている親の車。そして状況を理解すればするほどダークな気分になってきた。2006年1月1日。遠回りをして帰ろうと無邪気な提案をした自分を呪った。

白い息を吐きながら門番のおじさんに状況を報告した。「何度もそこにはまったの見たけど、右側は珍しいナァ〜。」傾いた車に戻る途中(だったら溝に蓋をしてくれ)と思った。
そして携帯から104へ電話をしJAFの番号を問い合わせる。教えてもらったのは短縮ダイヤルだった。おおよその現在地と現場の状況を伝える。到着まで1時間半、費用は2万円くらいと説明された。幸いにもほとんど車通りもない。

左は鬱蒼とした山、右は黒々とした海。敷地の入り口は巨大な鉄扉に閉ざされ、その先には蛍光灯の明る過ぎる警備室。小さなテレビには呑気なバラエティー番組。背後で動き続ける原子炉。
誰が好き好んで真夜中にこんな場所に来るだろう?

JAFを待つ間に日付けが変わった。どうごまかしても確実に動揺している自分に「もう元旦じゃないから大丈夫!」と微妙に的を射ていない彼女のフォローがありがたい。

JAFの到着後、一緒にしゃがみこんで車体を確認したり運転席でアクセルを踏んだりして作業は20分程で完了。母親の車にもほぼ傷はついていないようだ。財布を握りしめ会計を待つ。「値引きして1万8千円にします」と言う。なんて頼もしい人なんだ。

次に年会費の支払い方法を確認された。年会費?
東京で車を持っていないので運転するのは専ら正月実家に帰ってきた時くらいだ。会員価格で1万8千円。さらに年会費を毎年4千円。聞くと会員に加入するかは任意のようだ。何の説明もなく加入前提で話が進んでいたのにも驚いたが、この状況である。有り金で解決できればそれでいいと思った。一刻も早く、ここから立ち去りたかったのだ。

すると彼女が止めに入った。「家族割引が利用できるなら親に加入してもらえばいいんじゃないの?」今度は的を射た意見だった。すると「家族割引は使えない」とさっきとは逆のことをJAF氏は言った。どうしても入会させたいらしい。
何分かの問答の末、その意志がないことを伝えると彼は明らかに不服そうな顔をした。「入っといた方がいいと思いますけどねぇ!」「今度依頼があっても来れないと思いますよ?」

その豹変ぶりに呆気に取られつつも「非会員価格で構わないから、入会はしない。」と告げた。彼は渋々それに応じ、作業代13600円を支払った。
13600円は最初に提示された会員価格よりも随分と安い。その計算式はよくわからなかったが、入会キャンペーンの胸のバッチが彼に圧力をかけているのは明らかだった。

せっせと撤収し走り去る車を見送った後、「最初はいい人だったのにネ」と彼女と苦笑しながら車を発進させた。


本日の1曲
What Ever Happened? / The Strokes

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