ナビゲート ミー!

昨年夏に実家に帰った時、両親の車にカーナビが導入されていて驚いた。パソコンすらない我が家に、先にカーナビがやってきた。
「どこに居ても帰り道ボタンを押せばここまで案内してくれるのよン」と母親も自慢げだ。実家に帰ってくる楽しみはドライブにもある。久々のドライブを応援してくれているような頼もしい言葉だ。

友人と水族館に行く計画があった。東海大学海洋博物館までは1時間半ほどの道のりだ。カーナビを頼って一切の下調べはしていない。小学生の頃に両親と行ったきりで、その所在地の情報もほとんど知らない状態だった。

自宅の駐車場で画面にタッチ、目的地を登録する。「スタート」だ。
バイパスを使い静岡市内へ入る。ここまではよく知った道だったがそのうち知らない道に出た。しかし我々には心強いパートナー、カーナビ氏がいるじゃないか。目指すは海。ルートはカーナビ氏が示してくれる。
「コノサキ 700メートルヲ ミギ ホウコウデス」
「はいはい」と返事をしながら快適ドライブは続いた。カーナビがこんなに便利なものだとは思わなかった。

まだ一般に普及する随分前のこと、電器メーカーに勤める親戚のおじさん氏は自社のカーナビを搭載した愛車に乗せてくれた。運転しながらその機能を雄弁に語り「世の中便利になったもんや!わっはっは!」と誇らしげだ。「すごいねぇ」と感心する親戚一同に彼も満足そうだった。

海沿いの道を走っていた時、ふと画面を見ると現在位置を示す矢印は着々と海の中を突き進んでいた。言うまでもないが、そこは確実に道ではない。その驚くべき異変に気付いているのは助手席に座った自分ひとりであるようだった。この重要な局面において後部座席では世間話に花が咲いている。
「この車、水上バスにもなるの?」と言うと「まだ開発途中なんや!わっはっは!」とおじさん氏は高らかに笑った。
そのよろよろと定まらない矢印を凝視しながら、先端技術に一抹の不安を感じていた。

水族館からの帰り道、静岡市から高速に乗れという命令が下された。こちらとしては高速ではなくバイパスで帰りたかったのだが、カーナビ氏の意志は確固たるものであるようだった。高速の乗り口を過ぎてもなかなか諦めてくれない。正しいルートを示す赤線はしつこくUターンを勧めるあまり、見当違いな方向へ我々を導こうとしていた。バイパスを使った帰り道の案内はどうしてもしたくないようだった。

そこで母に言われた「帰り道ボタン」を試しに押してみたが、自宅の住所は登録されていなかった。母は登録したつもりになっていたようだ。あんなに得意げだったのに。混乱を極めたカーナビ氏の画面は回転を伴うほどにめまぐるしく動き出した為、丁寧にお礼を告げてから電源を切った。
・・・OFF。

なかなか意のままには動いてくれなかったが、行きに関しては大活躍だった。帰りの目的地が自宅でなかったら素直に従えたのだろうに。結局は自分の経験に基づいたルートが安心なのだ。


本日の1曲
Cruel Age / Asparagus


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