マークシートの四角い自由

教室に集められた生徒達に、全国の大学名が掲載された冊子が配られた。高校合格にほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、大学受験に向かっての3年間が始まったということだ。配られた用紙には第三志望まで大学名を書く欄があった。
高校の入学式の後、見せしめのようにそのイベントは行われた。大学に進学することなど、遥か遠くの出来事のように思っていた。その時は東京に上京したいという理由で、名に「東京」とつく大学をいくつか選んで書いた。

2年に進級する時、コース選択を迫られた。8クラスのうち文系、理系が4クラスづつ。その中で国公立系、私立系が分類された。私立文系クラスを選択し、数学や物理からはとりあえず開放された。
しかし今度は、繰り返される模試の度に、志望学科を選択しなければならない。
進路の選択に悩んだ覚えはない、というと聞こえはよいかもしれないけれど、列挙された学部名の中にひとつも興味を持てる名称がなかっただけだ。デザインに興味があり、美術大学の存在を意識するようになってからは、自然に進路が決定したようなものだった。そもそも高校生が真っ当な理由で経済学部を選択しているとは思えない。

その後、幾度となく受けた全国共通模試。マークシートの志望学部の欄は「その他」の部分が塗りつぶされた。当時は美大志願者が多かったが、田舎の高校で美大に進学を希望するものはほとんどいなかった。20を超える分類の欄には美術系はなかった。
3年になり盛んに行われた進路指導も、例外の扱いだった。面談の予定表には自分の名前はなかった。担任氏は美大のことはわからないから美術教諭に聞いてくれと言った。

しかし、その「その他」の感覚はとても居心地が良かった。それは自分は人と違うという優越感と、明確にある目標を示していた。大学合格に向かってやることは山ほどあったが、将来の展望に胸を膨らませることもできた。もちろん上京後の生活を想像することも。それはある高校生がマークシートの四角を塗りつぶしながら感じた自由だった。


本日の1曲
Rooftops / Lostprophets



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3/2 『ハイスクール・デイズ


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