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ありがとうさようなら

今日職場を退職した。学生時代から働き始め、実に5年4ヶ月。社会経験の無いこんな自分に働く機会を与えてくれ、20代の後半を共に過ごした職場だった。花束や頂いた沢山のプレゼントを抱えた帰り道、振り返ってビルを見上げると、色んな思いがこみ上げてきた。

このビルで働き始めて数ヶ月が経った頃。美術大学を卒業してクラスメイト達はそれぞれにやりたい仕事に就いていった。卒業から5年が経ち、独立する友人も多くなってきた。
フリーランスのイラストレーターとして活躍する友人には、何度も作品のチェックを依頼された。その度に何故自分なんかに相談してくれるのだろう?という思いが頭をかすめた。全てが何もしていない自分への後ろめたさだった。
そのコンプレックスのせいで同窓会にも顔を出せないでいた。華々しいクリエイター業界で活躍する旧友に合わせる顔がなかったのだ。

昨年末、『転職しようかと思ってさ。』と話すと友人は真面目な顔をして『その言葉を待ってたんだよ。』と言った。彼はこれまで何も言わなかったけれど、その表情が全てを語っている気がした。
当初指導した新人達も一人前になり、おじさん達の髪はさらに薄くなった。そろそろ時が去る時が来たのだ。

退職の当日、数百人が在籍する職場に声を掛けて回った。終日ほとんど席に着いていなかった自分の姿をわざわざ探して来てくれる人もいた。立ち上がっていつまでも手を振ってくれた人もいた。

勤務も残り少なくなった夕方、ある先輩に挨拶をしに行った。新人の時代には仕事を教えて貰い、愚痴を言い合った。毎日顔を合わせる度に彼女はいつも微笑んでくれた。
彼女は仕事の手を休め、目の前のパソコンの画面を見つめたまま『長かったねぇ・・・。』と呟いた。その瞬間、意図せず涙が出た。言葉に詰まって『ありがとうございました。』と言えなかった。

帰り道は同僚のお姉さんと食事をした。彼女は会話の合間に『泣こうと思えば、いくらでも泣けるのよ。』と言ったけれど、恥ずかしかったので聞こえないふりをした。そのまま話を続けていたら二人共ぐちゃぐちゃに泣いてしまいそうだった。
目の前には新宿パークタワーが見え、まだいくつものフロアに明かりがついていた。情けなさも少しついた自信も、5年間の自分の全てを内包した輝かしいビルの姿だった。


本日の1曲
Farewell Dear Deadman / ストレイテナー

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