阿波の季節

この部屋を契約する時、不動産氏はちょっと変わったアドバイスをくれた。『1年に3日間だけ、我慢してください。』

東京高円寺阿波おどり”は、毎年8月下旬に開催される。この街に越してきて3度目の夏、3度目の阿波踊りだ。今年は8月26(土)27日(日)の2日間、記念すべき50回目の開催だという。
期間中は駅のホームには見慣れないロープが張られ、たどたどしく駅員が誘導をする。酔っ払いが駅員に絡み、混雑する階段で足を踏み外しそうになる。人込みをかきわけてノロノロと自宅に向かう。

祭りの最中、駅も神社も近い我が家の周辺は大変な混雑だ。不動産氏が言っていたのは、これか。
当日はマンションの目の前の通りを練り歩くお神輿を部屋から見下ろす。居酒屋も特別営業で道端にお店を出す。そこら中夜店だらけになり、人々の熱っぽい喧騒は真夜中まで続く。

近所の通りには夜店が並び、モクモクと煙が立ち込めている。焼きイカの醤油の香りや、たこ焼きの鮮やかな紅生姜は一層縁日ムードを盛り上げる。

普段仕事帰りに足早に通り過ぎるだけの路地に、若者がたむろし、ドスの聞いた客寄せの声が響き、うちわを持った人々は夜店の列に並んでいる。そんな祭りの光景は、何とも言えない高揚感をもたらす。

そして次の瞬間には列に並び、焼き鳥や焼きイカを両手に帰宅する。窓を開けると、ひとり暮らしの部屋が酒場の喧噪に包まれる。普段の生活に祭りのエッセンス、結構オツである。
阿波踊り本番が近付くと、この街のあちこちで踊りの練習をする光景が見られる。商店街の路地に集まった老若男女。賑やかな祭囃子が道端に置かれたラジカセから聴こえてくる。

8月に入ると高円寺駅の電車の到着音は阿波踊りの音楽に変わる。先週末、休日に駅近くを歩いているとその音が聴こえた。(おぉ、今年も変わったのネ)と阿波の季節の到来を知る。普段ヘッドフォンをしているので気が付かなかっただけなのかもしれない。駅の構内にはポスターが貼られ、商店街には垂れ幕が下がる。
そして(祭りのある街はいいものだナ)と思う。


本日の1曲
Fight Fight / Number Girl


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