虚しき文字列と回復する水没

いくらこちらがニューモデルの端末に変えようと、相手の5年モノの携帯電話にかかれば通信の向上は期待できない。
カラーなのかも怪しい液晶では、小さめの文字や微妙な色彩を説明することもままならない。カメラなんか勿論ついていない。画像は受信するのみで、自分の置かれた状況は通話かメールで説明するしかない。

折り畳み部分のちょうつがいは壊れ、頼んでもいないのに350度くらい回転してしまう。最早”閉まりさえ”せず、弁当箱のようにゴムで口封じをされる時代遅れの携帯電話たち。

カラフルな絵文字は大抵「.」や「=」という虚しき文字列に変換される。感嘆符や疑問符に絵文字を使われると、それが「興奮状態」を表しているのか、「疑問を投げかけている」のかもわからなくなる。深刻な事態だ。

ある時友人と街を歩いていると、携帯ショップの店頭に友人と同じモデルの携帯電話が飾られていた。ショーケースにはでかでかと『携帯電話の歴史』という看板が掲げられている。ショルダーバック型の初代から、最新型の二つ折り携帯へ。本体はみるみる小型化し、端末の進化は明らかだった。

友人の携帯電話は、彼女の承諾も無しに『携帯電話の歴史』に殿堂入りし、困ったことにはその中盤に鎮座していた。彼女が苦笑いしながらポケットから取り出した携帯電話の歴史は真っ黒くてずっしりと重かった。

ある日の昼下がり、携帯電話をトイレに落としたと校舎中を騒ぎまわる女生徒がいた。当時、彼女の携帯電話の古さは学部内でもちょっと有名だったが、友達の多い彼女のことだ、さぞかし深刻な事態なんだろう。他の学生達も同情した表情を浮かべていた。

しかし後日、晴れやかな表情で見慣れた黒い物体(携帯)を握りしめる彼女を見た。聞くと『日なたに置いて』乾燥させた後、『直っちゃった!』らしい。『作りが単純だから単純な解決法が効いたんだねー』と満足そうに消えていった。
古い携帯を使っている友人たちは口を揃えて、『水に浸かっても乾かせば大丈夫』と誇らしげに言う。古い携帯電話は水没にめげない、らしい。

兎に角、なかなか携帯電話を替えない人々。実際に周りの何人かは殿堂入りしそうな古い携帯電話を使い続けている。
無線?モールス信号送るの?ところでそれ携帯なの?ポケベル以下。
散々な言われようを笑ってやり過ごし、彼等は水没や文字化けの困難を今日も乗り切る。


本日の1曲
Hard To Make A Stand / Sheryl Crow


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