東京の先輩

電車で目の前のつり革につかまった二人組の会話が聞こえる。
『あいつは英語強いから政経いけるかもな。俺全っ然英語出来ねぇから・・・無理だけど。』
『ていうか○○大学、学食なかったよな。』
『マジで?普通学食あるだろ・・・?(半信半疑)』
『・・・やっぱスタバとかで軽く食うんじゃねぇ?』

ひとしきり感想を述べ合った後は目の前の路線図を眺めては位置関係を確認するように一つ一つ駅名を読み上げていた。予備校の仲間達の動向も、東京の地理にも興味津々である。どうやら彼らは受験大学の下見に上京したようだった。

彼らは二人ともコンバースのスニーカーを履き、同じような色合いのジーンズを穿いていた。一人はニット帽をかぶっていたが、良く似ている。同じ高校か同じ予備校に通っている感じだ。きっと学力も同じくらいなのだろう。

そういえば高校生の時、受験の為に何度か上京した。ビジネスホテルに予約を入れ、自動的に母が付き添いでついて来た。こちらが勉強している間は母はベッドに寝転がってずっと読書をしていた。母はゆっくり本が読めて大満足のようだった。ご丁寧にも会場迄ついてきて、試験が終わると外食をしてホテルに戻った。

静岡から東京までの二人分の交通費と宿泊費、受験料を考えると、受験は大層お金が掛かる。穏やかではない金額を散財した後、唯一合格した大学も入学辞退して浪人生活に突入した。
郊外に多い美術大学の受験会場はどれも立川の”自宅”から近かった。一年間の家賃がかかってはいるものの、昨年のホテル代を考えると節約できているような気がしたものだ。

来春、関西に住む従姉妹が東京の大学を受験する。この間は一家総出で東京に大学見学にやってきたようだった。
合格した際には横浜の大学に通う兄と同居するらしく、彼女は学校が遠いと文句を言っていた。東京北部に位置するそのキャンパスまでは確かに時間がかかる。

一人っ子の自分にとって彼女は妹のような存在だった。彼女が大学を受験する年齢になったなんてちょっと感慨深い。東京暮らしの先輩として困った時には連絡して欲しいものである。
きっと困った時には助けを求めてくるはずだ。なんといってもこちらは社会人なのだ。多少のお小遣いを渡したり、ご飯を御馳走することになるかもしれないが、そんな生活が楽しみでもあった。

先日久々に再会したものの、本人からもその家族からも、『東京に行ったらよろしくね』という言葉は聞かれなかった。そもそもあまりアテにされていないようだ。


本日の1曲
トレイン・ロック・フェスティバル / くるり


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