見つめるヨガ

我々は真夜中にベンチに腰掛け、視界の右から左に流れる大井川を見下ろしていた。目の前には長い木造の橋が延び、その下には人気のない河川敷が横たわっている。
明かりといえば、後方の自動販売機だけ。まるで高感度の暗視カメラを覗いているようなザラリとした景色だった。

ゴールデンウィークに帰省するのは何年ぶりだっただろう。
我々はベンチに腰掛け、静かで不気味な田舎の夜の景色を懐かしく眺めた。
向こう岸には真っ黒に連なる山々、川岸のひんやりした空気に思わず深呼吸する。なんとなくヨガのポーズを試みたくなる気分だ。

ヨガには以前から興味があった。それは 「ヨガのポージングで瞑想する時、自分は何かを考えるのだろうか」という興味でもある。
そんな疑問を口にすると、すかさず隣にいた友人氏がレッスンへの参加を提案した。彼女が週に一度通うヨガ教室は、ちょうど明朝に開催されるという。

翌朝、首からバスタオルを掛け、帽子をかぶり、自宅を出発した。意気揚々と道路を歩いているだけで、一歩ずつ健康に近づいている気さえした。

スタジオでは既に女性達が床にバスタオルを敷いて座っていた。
ほどなくして女性トレーナー氏がCDプレーヤーを再生した。するとなんとも「ヨガ的」な音楽が流れてきた。

まずは脚を投げ出して床に座り、爪先のストレッチから。徐々に動作は大きくなり、体中の筋をひとつひとつ伸ばしていく作業が始まる。
トレーナー氏は解説を加えながら体勢の指示をする。そして指示した動作が心身にどんな効果を与えるのかを説明する。柔らかな口調は心地よさを増長させた。

つま先を見つめると、足の爪を切らなきゃならないな、と思う。関節を曲げながら、内臓の存在を意識する。
毎朝慌ただしく出勤、夜までたっぷり働いて、自宅のベッドに横になれば知らない間に寝てしまう。ゆっくりと自分の身体を見つめることを暫くしていなかった。

自分の身体を見つめる体験は実に新鮮だった。ヨガの呼吸法は、思いの外コントロールが難しく、ひとり不自然な呼吸を続け、1時間のレッスンでじんわりと汗がにじんだ。
そしてヨガというエクササイズには、思った以上にその後の生活意識を変える力があることが判明した。

しかし実のところ、レッスンの間中タバコが吸いたくて仕方がなかった。
「ヨガのポージングで瞑想する時、自分は何かを考えるのだろうか」
小難しい顔で自分に問うたその答えは、ちょっと期待はずれな普通の欲望だった。


本日の1曲
Born & Raised / Joy Denalane


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