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『太陽を盗んだ男』

『太陽を盗んだ男』を最初に観たのは大学時代だった。その作品を知ってから観るまでに少し時間があった。深夜にテレビで放映されていたのを観て、なんだかただ者ではない雰囲気にチャンネルを変えた。
あるミュージシャンもその作品を薦めていて、ちゃんと最初から観たかったのだ。その後何件かのレンタルビデオ屋に行ったがビデオは見つからなかった。

その日は前の日から寝ていなかった。おそらく午前中の授業の出席を取るために大学へ向かった。そして大学にある映像ライブラリに行ってみた。そこでは一般的に入手しにくい映像作品も観ることが出来る。すると、あった。あんなに探していたのに自分の大学のライブラリをチェックするのを忘れていたのだ。
すぐにレーザーディスクを見始めた。2時間以上ある作品だが眠気は一気に吹き飛び、見終わった後は呆然としてしまった。なんなんだこれは。なんだか朝っぱらからすごい作品を観てしまった。

主人公の理科教師はいつもガムを噛みながらつまらそうな顔をしている。だから生徒達から「フーセンガム」と呼ばれている。その冴えない彼が密かに進めている計画があった。驚くべきことに、それは原爆を作ることだった。作り方は知っている、あとはプルトニウムを手に入れれば彼にはそれを作ることができた。

そして彼は原爆を作ることに成功する。実験室と化した自宅のテレビからは野球のナイター中継が流れる。作業の合間に鼻歌を歌い、ナイターを眺める。テレビの中継がいつもいいところで終わってしまうのが彼の不満だった。
数日後、原子爆弾の完成に歓喜の踊りを舞い、足で転がして遊ぶ。その異様なテンションは観ているこちらを緊張させる。

原爆は手に入れた。しかし彼にはその使い道が判らなかった。
そこでラジオ番組に電話を架け、あろうことかディスクジョッキーに原爆の使い道を相談する。半信半疑の彼女はローリングストーンズの来日を提案する。
そして彼は『ナイター中継を最後まで放送すること』や『ローリングストーンズの来日公演を実現させること』を政府に要求する。世界的驚異の象徴を手中に収めても、彼にはそれしか要求することがなかった。自分は誰で、何がしたいのか?

この映画が制作されたのは1975年である。主人公の教師役に沢田研二、彼と対決することになる刑事役に菅原文太、ディスクジョッキー役は池上季実子。(ちなみに『タクシードライバー』の脚本を手掛けたポール・シュレイダーの兄、レナード・シュレイダーが脚本を書いている)DVDが発売され、すぐに購入した。
この作品にはきわどいシーンが多々ある。現金がデパートの屋上からばら撒かれ、女装して国会議事堂へ侵入し、バスで皇居正門前へ突っ込む。もっとも事前に撮影の許可を申請したところで許可など下りるわけはない。撮影クルーは逮捕者を出してもゲリラを慣行する。高速のカーチェイスのシーンでは小型車4台で後続車をせき止め撮影が行われた。撮影クルーは日毎に警察に連行される数人をあらかじめ選んで逮捕に備えていた。

長谷川和彦氏は監督としてはこれまで2本の作品を世に送り出したのみだ。76年のデビュー作『青春の殺人者』は中上健次の短編小説を映画化した作品だ。実際に起こった親殺しの事件がモチーフでその錯乱と狂気の世界はこちらを圧倒する。

両作品ともに興行的に必ずしも成功したと言えないが、未だに映画ファンの支持は厚い。以前新宿のゴールデン街で友人と長谷川作品の話をしていたら、カウンターに座っていた常連氏に軽々しく口にするなと怒られた。友人と苦笑いして顔を見合わせた。若者にだって好きな映画を語る権利はあると思うが、そこはやはり一筋縄ではいかない長谷川作品ということか。


本日の1曲
Optimistic / Radiohead



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○ 長谷川和彦監督作品 ○

太陽を盗んだ男 ULTIMATE PREMIUM EDITION
太陽を盗んだ男
1979年作品
出演:沢田研二 菅原文太 ほか

青春の殺人者 デラックス版
青春の殺人者
1976年作品
出演:水谷豊 市原悦子 原田美枝子 ほか

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