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酔狂的人間模様

このマンションの向かいのビルの1階はちょっとしたスナック街になっているようだ。

引っ越してきてすぐその喧噪と生活を共にすることになった。扉がカランと開く度に轟くカラオケの音や、懐かしのジリリリという黒電話の音。カラオケで「あたぁたぁめてえぇえ〜〜」と悦に入っている歌声。

その歌声を聞く時、いつも同じフレーズでフルボリュームの盛り上がりを見せることから彼が常連客であることが伺える。そして暫くすると乾いた拍手の音が聞こえる。ここまでが毎回同じだ。駅近くのスナック街には毎晩ママ達のゲラゲラという笑い声と酔ったお客の高らかな笑い声が絶えない。

あるお店のママは必ず道端までお客さんを見送りに来る。毎晩何度もそのやりとりが聞こえる。我が家に来る友人達は一度は耳にしたことがあるはずで、その回数を考慮するとお店は結構繁盛しているようだ。(週末はやっぱり客の数が違う!)と勝手に感心したりしている。

「またいらしてくださいネ」「ありがとうございましたッ」というママにしてはヨソイキな客とのやりとりが聞こえたかと思うと、次には「風邪ひくなヨッ!ガハハ」「ころぶなよッ!ガハハ」と常連さんに声を掛けている。言葉は幾分変わるものの、ママの人懐っこい朗らかさは変わることがない。

「あら、雨だねぇ」「寒いわけだよォ、雪だもん!」という声が聞こえるとママが立ち去ってからそっと窓を開けてみたりする。ママは気象情報も教えてくれるのだ。
そして年末年始には挨拶を忘れない。「来年もよろしくネッ」と「今年もよろしくネッ」は12月初旬から1月終わりまで続いた。

ある休日の昼下がり、昼寝でもしようかとベッドに寝っ転がっていると、向かいの道端からゲラゲラと聞き慣れた笑い声がする。まだ昼の1時といったところだ。片付けやらを考慮すると7時くらいまでは店にいるはずだし、開店までにはまだ時間がある。その「ど真ん中」的な時刻におののく。ママはいつ寝ているのだろう?

近隣にスナックや居酒屋が多いせいで部屋の真下の道端で酔っぱらいが喧嘩を始めておまわりさんが駆けつけることもある。明け方に若者グループが大声で歌い出して仲良く盛り上がっていると思うと、そのうちやっぱり喧嘩を始めてしまう。穏やかではない彼等のファイトで折角の睡眠が台無しになることもある。オイオイ勘弁してくれよ、と思いつつも部屋の窓を開けて観戦してしまったりする。

早朝の道端で客を送り出すママに遭遇したことがあった。いつも階上から声を聞いたりチラッと見たりするだけだったが、朝日の中で見るママにちょっとした感動を覚えた。ママは和服を着ていた。毎日わざわざ着物を来てお客さんを待っているということに驚き、感動した。

日々酒場で繰り広げられる光景に、なんとなく人間の営みのようなものを感じてしまうと言ったら大袈裟だろうか?

さっき、今夜はなにを書こうかナ、とベッドに寝そべっていたらママの声が聞こえてきた。そしてこの文章を書き始めた。どうやら、またママが客を送りにやってきたみたいだ。


本日の1曲
Whisky & Unubore / ZAZEN BOYS

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