25時の風景

新宿方面からやってきた電車がホームに停車する。車両の中の人影が少しざわつき、間もなくして駅から人々が排出される。右からやって来た電車は左へ走り去り、それは25時を過ぎてもしつこく繰り返される。ロータリーに面したビルの2階、窓際の席に腰掛けると、25時の景色が見えた。

若者達は車道を歩き、客のいないタクシーがロータリーを周回する。道端にあるスナックの看板はチカチカと電球を点滅させ、雑居ビルの非常階段には真っ黒な人の姿。蛍光灯で眩しい駅のホームには、下り電車を待つ人影が等間隔に並んでいる。キャバクラの呼び込みの黒スーツもラストスパートをかけ、執拗に勤め人を追い回している。

週末は混み合うこの店のいい時間はやはり夜中だ。天井にはシーリングファンが回り、通路の黒い鉄製の支柱もクラシックな趣がある。板張りの床は店員が歩くたびにゴトゴトと篭った足音がする。

店内には客が2組いて、それぞれが親密そうにアルコールを飲んでいる。近隣で飲んだ後、別れ惜しくてここに来る客も多そうだ。ひとりの客は自分だけだった。

暫くすると、店員が店内の灯りを調節してまわり、店内は一段と暗くなった。ガラス張りの効果で、店は外の暗闇に溶け込んでいるようにも感じられる。真夜中の瞑想にはうってつけの環境だ。

終電の時間が近づくにつれ次々と客が帰っていく。騒がしさが一段落する時間を見計らって25時にここに来た。この時間に酒を飲まずに落ち着ける場所はなかなかないかもしれない。もっとも、落ち着きだけを求めてここに来るというわけでもない。

ある作家は『夜中の3時には動物だってものを考える』と言った。あらゆる液晶画面から離れると本当に考えたいことや味わいたい言葉と対面できる気がする。
だから思考が滞りそうになるとここへ来て、真夜中の風景を眺める。雑多なあれこれを取り払って、真夜中の風景を眺めていると、正直な感情が湧いてくるのを感じる。

外へ出かけることは気分転換になるし、ふらりと入れる店の雰囲気も気に入っている。ゆっくりとものを考えたい時は、よくこの店のスペースを借りる。
昼間は、開け放たれた店の窓からいつも愉しげな笑い声が聞こえてくる。ランチの大きなピクルスもいいけれど、心地良い闇に包まれる深夜はもっといい。


本日の1曲
Sullen Girl / Fiona Apple



Yonchome Cafe

Open Everyday am 11:30 – am 3:00 Close
東京都杉並区高円寺南4-28-10 2F
(高円寺南口ロータリー左手 花屋の2階)
Tel 03-5377-1726

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