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SLにのぼって

公園の入り口には真っ黒なSLがどっしりと構えている。遊具に改造されたそのSLの先頭には「D51」と書かれた重厚なプレートがついていて「D51(デゴイチ)は有名なSLだっけだよ」と父は教えてくれた。

実家の隣にある通称「SL公園」には遊具がたくさんあった。ブランコに滑り台、カラフルなアスレチックやコンクリの迷路など。夏休みのラジオ体操は決まってそこで行われたし、避難訓練や町内の運動会などで常に住民の中心にある公園だった。

幼い頃、ひとりで公園に出掛けてはSLのてっぺんに登って持ってきた駄菓子を食べた。上から見ると視界が違う。ソーダ味のアイスの棒に続けてアタリが出たことがあった。そしてその度に駄菓子屋に行きアイスを貰い、またSLの上に登って食べた。それを4回も繰り返したのであった。そうして子供達が駄菓子を持って集まるために、SL内のあちこちに駄菓子の袋が散乱していた。

公園の後方、国道一号線のすぐ手前には児童センターが併設されている。それはコの字をした煉瓦色の建物で、1階の両側は職員が待機する事務所とトランポリンや鉄棒などが置かれた遊具スペース、2階は小さな図書館と会議室になっていた。そこで沢山の絵本を読んだし、竹馬やフラフープで遊んだ。

建物の上部には半円形の銀色のドームが乗っかっている。普段はロープが張られているそこへ上る階段も、天体観測会の時だけ開放された。黒いフェルトが敷き詰められた狭い階段を上がると屋根裏部屋のような真っ暗な空間に出た。半円形ドームの内側だ。真ん中に天体望遠鏡が空に向かって突き出している。
何といってもこの日ばかりは堂々と夜に外出できた。夕飯を食べた後に近所の友達に会えるのも嬉しかった。普段は夕方に閉館する児童センターに夜入れるのはこの日だけで、「しゅうごうじかんは8じです」と掲示板に開催の「おしらせ」が貼り出されるとわくわくしてその日を待った。子供達とその親は代わる代わる望遠鏡を覗いては歓喜した。

1階の事務所には常に2人の職員が居た。たまに人が入れ替わって新しい世話役がやってきた。毎日のように通う自分はその事務所の「常連」だった。灰色のスチールの机の下には無数の紙芝居が積まれていて、床にぺたんと座ってはそれを眺めた。
それまでいた職員は中年のおじさんやおばさんばかりだったが、ある日めがねをかけたお兄さんが配属されてきた。いつも白いポロシャツを着ていたお兄さんは片方の足がなかった。事務仕事中には時々義足を外して見せてくれた。
ある日周りに誰も居ないのを見計らって彼の飲みかけのお茶に修正液をたらして混ぜた。その後あっさりと悪事はばれ、怒られた。(勘が鋭いな)と子供ながらに感心したのだが、どうしてばれてしまったのかは今でもよくわからない。

今年の正月に帰省した際にその公園を訪ねると、プールが無くなっていた。家族に聞くともう何年も前に撤去されたそうだ。毎年実家に帰省していながら、自分が思っていたよりも長い期間この公園に足を踏み入れていなかったことに気がついた。
平坦なコンクリの地面を靴底で撫でるように歩いた。プールの中でこっそり用を足した自分の尿も分子レベルで残っているかもしれないな、とどうしようもないことを考えた。
公園のシンボル的存在だったSLの周りにはロープが張られていて立ち入り禁止になっていた。話題の有害物質がその車体に使われていたらしい。
階段を上って荷台部分を覗くとあの頃と変わらないどぎつい赤のペンキが剥げかかった床が見えた。そしてあの頃と同じように駄菓子の包み紙がたくさん落ちていた。

現在はゲートボールをしたり、夏には盆踊り大会が催されたりしてそれなりに活気があるようだ。祖母はゲートボールを始めたようだった。そしてこちらが「ゲートボール」という度に「グランドゴルフ」と訂正してくる。祖母はきっと老人の象徴のようなその呼び名に抵抗を感じているのだ。一度その「グランドゴルフ」を見に行ったことがあった。
一眼レフをぶら下げて現れた孫の姿を見つけ、そこにいた30名程に声を掛け記念撮影をしてくれと言う。「はーい、取りますヨー」と片手を上げてからシャッターを切った。おばあちゃんもその仲間達もすごくニコニコしていた。

久々に歩いた冬の日の公園は、あの頃の輝きは無かった。20年前と変わらない遊具の数々はどれも覇気が無かった。あんなに大きかった滑り台も高いコンクリの丘も、驚くほど小さく、素っ気ないほど色彩は単調に褪せていた。

今でも地域の人々にはたったひとつの公園であり、賑やかな小中学生の通学路であることには変わりはないのだろう。けれども現在の自分がその公園の存在から遠く離れてしまったのを感じて少し寂しくなった。


本日の1曲
ミラーボール / クラムボン

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