トップページ > 黄昏コラム > いせや寄稿。

いせや寄稿。

井の頭公園に次ぐ吉祥寺の名所と言っても過言ではない。『いせや』は精肉店として昭和初期に創業、焼き鳥を販売して50年の老舗。吉祥寺には2店舗あり、吉祥寺駅前交差点近くに「総本店」、井の頭公園入り口には「公園店」がある。
この度総本店が建物の老朽化のために建て替えられることになった。そしてそのニュースは世間でもちょっとした騒ぎになっている。

中央線のガード近くにいせや総本店はある。昼間に通りかかると並木の緑に映える築50年の木造建築が美しい。昼間から周辺にもうもうと煙が立ち上がり、カウンターは賑わっている。
名物の”安くて大きい”焼き鳥は1本80円。親しみを込めて「芸祭価格」と呼ばせていただいている。焼き鳥をつまみにちょっと飲む程度なら1000円でおつりがくる。

閉店前の最後の日曜日。夕刻のいせや総本店には入店待ちの長蛇の列が出来、歩道は人で溢れかえっていた。歩道に面した立ち飲みカウンターは2列3列とお客が押し寄せている。写真を撮っている人も多かった。
店の軒先では大勢の店員達がテキパキと焼き鳥を焼き続け、白い煙がもくもくと立ちのぼっている。忙しく手元を動かす店員氏と親しそうに会話するおじさん。きっと常連客なのだろう。

そういえば学生の頃、友人と3人で来店した時、向かいの席で飲んでいたヨレヨレのスーツ姿のおじさん2人に巻き込まれ、会計をおごって貰ったことがあった。持つべきものは酔っぱらいの扱いに長けた可愛い女友達である。

この混雑では入店まで時間がかかりそうだ。『20時以降は初めてのご来店のお客様お断りします。』の貼り紙も納得がいく。ひとしきり総本店を眺めた後、いせや公園口店に向かう。

予想通りこちらにも行列が出来ていた。いせやの行列は週末のお馴染みの光景なのだ。向かいのオシャレなダイニングバーに作業着姿のおじさんがいる。いせやの方をチラチラと眺めているところを見ると、混雑にはじき出されてしまったいせやの常連さんなのだろう。

並んでから約10分、長テーブルに丸イスという極めてシンプルな席につき手早くオーダーを済ませる。酒の飲めない小生、焼酎サワーの無い総本店ではなく、ほとんど公園口の店舗を選んでいる。足繁く通ったおかげでメニューを見なくともオーダーできるくらいだ。焼き鳥各種をシオで頼む。揚げ餃子、ジャンボシューマイ、モツ煮は必須だろう。ライスを頼めば定食気分で食事ができる。(最近レバ刺しがメニューから消えてしまったのが悔やまれる)

公園口店は2階建ての吹き抜け構造になっていて、傾斜の急な階段を上ると座敷スペースがある。
2階の通路脇に並んだテーブルを見上げ、チカチカと蛍光灯に照らされた座敷を眺める。ガヤガヤと騒がしい店内を若い店員達がすり抜けていく。年代物の扇風機がお客を見下ろす。
なんともいびつな店内の構造はアジア諸国の大衆食堂を思わせる趣がある。これは意図的な演出では絶対に出せない空気だ。

思えばこの店で友人達の色々な告白を聞いた気がする。銀色の灰皿を眺め、安っぽい緑のイスに座っていると学生時代を思い出して、懐かしい気分でいっぱいになった。
親しみのある店が解体されるのは心許ないだろうナ、とふと思う。総本店はあの場所で50年間も営業を続けていた。常連達にも店員達にも、それぞれ沢山の思い出があるのだろう。いせや総本店は来月解体され、来秋には14階建てビルが建つ。


本日の1曲
サヨナラダケガ人生ダ / eastern youth

続けて読みたいエントリーたち

0 Responses to “いせや寄稿。”


  1. No Comments

Leave a Reply