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カードは君の手の中に

昼間のパートタイマーのおばさん達はテキパキと手際よくお客をさばく。豆腐や果物はバーコードを通したついでにビニール袋に小分けしてくれるし、買い物袋の大きさの見極めも正確だ。合間の営業スマイルも見事で仕事にソツがない。

この度スーパーに新しいバイトの女の子が入った。彼女には申し訳ないのだが、お世辞にも仕事が出来そうには見えない。一言で言うと、覇気が無い。
駅近くのスーパーはいつも大繁盛だ。皆が電車を降りてから一斉にスーパーになだれ込んでいく。会社の仕事が終わる夕方過ぎから終電近くまで、電車を降りた客が常にスーパーになだれこんでくるはずだ。その一番忙しい時間帯に彼女は働いている。

夜のレジ係が少ないのは見て明らかだ。商品陳列棚の間に客が列をなしている。列に並ぶ為に遠回りをしなくてはいけない状況である。
彼女がそんな時間帯にシフトインしてしまったから、大変だ。動作はのろいが確実に動揺している。『カードを作りますか?』はっきり言って、今それを勧めるのは無茶なんじゃないか。しかし何故かその時『じゃ、作ります。』と反射的に言ってしまった。

これは大変なことをしてしまった、と気づいたときにはもう遅い。こうなったら彼女の動きを徹底的にアシストするしかない。ものすごい勢いで申込み用紙に記入を始めると、『あ、あの、ここではなくてあっちで書いてください。』と彼女は言う。指差す先には、カウンターがあった。そうか、これだけ長い列が出来ているのだから無理もない。機敏に移動し、記入を再開。記入を終える頃、彼女は自分のところへやってきた。

ナイスだ。ナイスタイミングだ!とラストスパートをかけると、『ボールペンをどうぞ。』と言われた。言うまでもないがボールペンはもう借りた。なんとなく戸惑っている(なぜだ!?)彼女に記入を終えた申込書を渡した。
一仕事終えた満足感でレジ方向を振り返ると彼女のレジは見事に停止中だった。長い列に並んだ客達は、怪訝そうな顔で彼女と自分を見ていた。

さぁ、次はレジに戻ってカードを発行しなくてはならない。しかし、とある客の精算は途中で放り出されたままになっていた。財布の口を開けたまま、会計を待つサラリーマン氏。まだ合計金額すらはじき出されていない。
時間をおいてしまったせいで、どこまで仕事をしたのか忘れてしまったらしい彼女はレジスターのけたたましいエラー音と共に、あくせくと働き出した。一度再開してしまった仕事に区切りがつけられないのか、その日はカード発行までに随分時間がかかった。

後日、苦労して作ったカードを持って、並んだ列はまた彼女の列だった。カードをあらかじめ商品の一番上に置いておけば、差し出すタイミングを図る必要はなくなる。彼女は一通り商品をバーコードに通した後、カードを両手で大事そうに握った。
次の瞬間、『カードはお持ちですか?』とこちらに問いかけてくる。彼女と自分の間の空間を見ているようなぼんやりとした顔をしていた。君が手に持っているのはなんなのだ。
『・・・ソレですよね?』と控えめにカードを指差すと、彼女は表情ひとつ変えることなく、『お預かりいたします。』と言い、視線をレジに戻したのだった。”何事もなかったかのように”とはこのことを言うのか。

どういうわけか彼女の列に並ぶことが多い。あみだくじみたいなもので、列の後ろからはレジを打つ人間は見えないのだ。
スーパーのレジ係の仕事は意外と頭を使うのかもしれない。バーコードのついていない野菜は手打ちしなくてはならないし、会員カードもスキャンしなくてはならない。
現代のレジスターは預かり金額を打ち込めば、おつりが自動排出される仕組みらしい。おつりの硬貨を勘定するレジでなくて本当に良かった。
それに最近の彼女は、幾分会話の歯切れも良くなり、レジさばきも板についてきた様子だ。


本日の1曲
Warning / Green Day

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