敬語お代官

大きな声では言えないけれど、ものすごく丁寧な言い回しをしているのに、ものすごく違和感を感じさせる人が職場にいる。ハキハキと明るく笑顔で感じもよいのだけど、その違和感の理由にある日気づいた。
『ランプが点滅なさっているんですね。』
『お車がお止まりになりますので。』
彼女は”何に対しても”丁寧過ぎる。

小学生の時のクラスメイトは授業参観で張り切るタイプの女の子だった。多くの父兄が教室後方にずらりと整列している。先生が生徒に意見を募ると彼女はものすごい勢いで挙手し、張り切ってガタン!と椅子から立ち上がった。

彼女はいつになく硬い表情で『エー、わたくしは』と切り出した。極度の緊張が彼女を田舎の小学生らしからぬ発言に導いてしまったのだろう。彼女は頭脳明晰を鼻にかけるタイプの生徒でほぼ期待通りのオチだった。きっと自分の母親だけではなく、そこにいる全員の父兄にまで優等生をアピールするつもりだったのだろう。
「わたくし」って小学生の言葉じゃないダロ、と皆が思ったはずだ。クラスメイトたちは笑いを堪えるのに必死で、本人はその後も決してその話題に触れなかった。

最近では『形(カタチ)』もよく使われているようだ。くどく使わない限りは誤用ではないと思われるが、一文に何度も登場するとわけがわからなくなる。以前顧客のクレームを対処していた上司氏は、おそらく痛いところを突っ込まれたに違いない。上司氏は電話口でひたすら恐縮していた。
『お伺いするカタチ・・・のカタチです。』
『そのカタチ・・・でやらせていただくカタチです。』
そしてどんどん言葉遣いが変になっていった。

接客敬語も気になる。何にでも『〜ほう』や『〜になります』をくっつける人や、『よろしかったでしょうか?』と同意を求められると、ならないし、よろしくない!と地団駄を踏みたくなる。
そういえば学生の頃の授業で尊敬・謙譲・丁寧語の単元があった。そんなものとうに忘れてしまったが、それらの発言には明らかに違和感がある。日本語は難しい。

ある同僚は『左様でございますか。』という一般的な相づちを噛んで『さようか。』と言ってしまった。それは時代劇のようで悪くないが、ビジネスには不向きかもしれない。


本日の1曲
丸の内サディスティック / 椎名林檎


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