はたちの時間

久し振りに従兄弟に会った。彼は父親の弟の息子で、実家は兵庫県にある。現在は大学に通い、神奈川県でひとり暮らしをしている。
従兄弟一家は盆や正月には必ず静岡の実家にやってきた。とにかく小さい赤ん坊だった彼は、無邪気な幼少時代を過ぎ、むっつりした反抗期を越え、今年成人式を迎えた。先日の敬老の日に花束を贈ってくれたと祖母は嬉しそうだった。わざわざ花屋で花を注文する青年になったなんて、にわかに信じがたい。

彼は一人で電車に乗り、待ち合わせの新宿駅にやってきた。大学は男ばかりでむさくるしいとか、来月の学園祭に来るミュージシャンが学内で不評だとか、たわいもない話を楽しそうに話す。かっこづけのつもりのなんだかよくわからない見栄を張ったりしながら話は続いた。

彼が大学生になって親元を離れてから、彼の視線は親しみを増した。一番近くに住んでいる親類なのだから当然かもしれない。弟がいたらこんな感じなんだろうと思う。そして自分の20歳の頃を思い出す。

不満や悩みにパンク寸前になり、部屋に篭る。時々催される親戚の付き合いにうんざりし、顔を見せなくなる。くだらないからと成人式を無視し、上京して見知った文化にのめり込み、あらゆる主流を見下していた頃ではなかったか。それは誰もが経験する閉塞感だと思っていた。

彼はよく笑う。彼の話に登場する流行りの音楽や、最近のテレビ番組の話はほとんどわからないが、こちらが頷いても頷かなくても一人で楽しそうに笑っている。表裏をあまり感じさせない話振りはとても無防備で警戒心がない。子供の頃から彼の内気な性格を家族は心配したが朗らかで優しい青年に成長したみたいだ。

20歳の頃の自分はこんなに純真だっただろうか?隣で話にヒートアップする彼を横目に会話の合間にそんなことを思う。
過去について思いを巡らす時、些細な日常の光景を意外と思い出せないのかもしれない。印象的な出来事の幾つかを鮮明に覚えていたとしても、その合間に流れていた”普通の時間”についてどれだけ覚えているだろう。
彼をみる時はいつも、彼の歳だった頃の自分のことをぼんやり考える。


本日の1曲
When You Were Young / The Killers


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