正直であれ

できることなら、いつも正直でいたい。納得しないことには首を縦にふりたくはない。しかし環境がそれを許さないこともある。蓄積された不満は鈍痛を伴って気分を滅入らせ続ける。

人の間違いを執拗に叱責する、人の発言を無視する、気に入らないことがあれば人にあたり、ストレスを撒き散らして他人を困惑させる。全ては自分の機嫌次第で、否定されることは好まない。その場の空気を淀ませていることにも気付いていないある種の人々。

その中に押し込まれると、次第に正直でいることが面倒になってくる。
落胆と怒りを繰り返すうち、口を閉ざすことを覚えた。不愉快さを表明した時に自分に注がれる冷たい視線や、相手が一瞬狼狽する情けない表情は一層気分を滅入らせるからだ。

その違和感に悩むうち、自分が深刻な「ふり」をしているだけなのではないかと疑ってみたりする。けれども、常につきまとう鬱屈とした気持ちはぬぐい去ることが出来ず、楽しいはずの時間を楽しく感じられないほど無表情になり、浅い溜息が日常的に放出されるようになった。

まだ大学生だった頃、ある友人は書きためた散文を見せてくれた。そのうちの一枚には正直でいることの困難さが綴られていて、冒頭の一遍は特に印象的だった。

私はずっと 正直であれと言われてきました
親や先生には嘘をついてはならないと言われ 
学校の道徳の時間にもそう言われました

中学生時代からの付き合いになるけれど、彼女が体裁を取り繕っているところや、都合の悪い失敗をごまかしているところを見たことがない。場合に応じて愛想笑いはするものの、心から優しく微笑むことを知っている人だ。

彼女がどうしてその詩を書くに至ったのか。きっかけになるエピソードがあったのかもしれないけれど、直接聞いてみたわけでもない。
しかしその時、彼女は自分を偽らないが故に、正直でいることの困難や苦悩を「知っている」のだとはっとした。

思った疑問を口にして、納得できないことには首を傾げ続ける。そうやって正直な反応を示すことも、受け入れてもらえるとは限らない。単に面倒くさい人・わかりが悪い人として片付けられてしまうこともある。

__当たり障り無く人と接して、よく思われたい
周りをみると、皆が口ごもって本心を言っていないように見えた。それは堪らなく奇妙な光景ではある。
しかし鈍感を装って、その違和感をやり過ごしている自分もまた、正直な人間から遠ざかっているのだと、最近思う。


本日の1曲
Sweet Baggy Days / The Pillows


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