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ブラック・ジャック

真夏でも黒いコートを着込んだその風貌で世間からは白い目で見られている。無免許医師でありながら治療に多額の金を請求するために金の亡者と揶揄される。

彼の天才的オペの技術なくしては救えない重症患者もいるのは紛れもない事実だ。誰も彼の替わりにはなれない。その事実に権力は屈し、警察は保釈を繰り返す。

彼は幼い頃、ある爆発事故の犠牲となり、身体がバラバラになる重傷を負った。彼は本間丈太郎医師によって命を取り留めたが、最愛の母は死んだ。ツギのある顔は、その時の手術の名残で、頭髪の半分は恐怖で真っ白になった。

何にも媚びることもなく、身分や人種で患者を差別することもない。それ故に人々が向ける絶対的信頼をみることもできる。
彼は権力に抗っているかのようだ。組織に属し権力を振りかざす人間達を嫌悪する。
命の危険に瀕した人間に金や権力など意味があるだろうか?彼の振る舞いは時に冷酷に見えるかもしれないが、揺るぎない哲学を感じることができる。

しかし彼はいつも高額な請求をしているわけではない。時にはタダ同然で手術を行い、手術代金をそっくり返してしまうこともある。ブラック・ジャックは冷静な眼差しで人間を見極めているのである。
作品には安楽死のプロ、ドクター・キリコも登場する。ブラック・ジャックが命を救うために奔走している間、キリコは死を望む人々をあの世へ送り続ける。

キリコは昔、戦場で働く医者だった。戦いで負傷した兵士達は激痛から解放されたい一身で安楽死を望み、処置が施されると感謝しながら死んでいく。法にも触れず、依頼人を苦しませることもなく、安楽死は静かに実行される。

本間丈太郎医師が病に侵されその人生を終える時、ブラック・ジャックにこう言う。
『人間が生き物の生き死にを左右しようなんぞ、おこがましいと思わんかね・・・』

医療で命を救うのは尊い。しかしその延命処置が必ずしも人間を幸せにするとは限らない。新たな人生が新たな困難に押しつぶされるかもしれない。
人間は何を望むのか。そしてそれはどうすれば手に入れることが出来るのだろうか。ブラック・ジャックは問い続ける。


本日の1曲
Idioteque / Radiohead


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初めて本作品を読んだのは、大学生の時だった。それまでマンガを読む習慣がなかった自分もたちまち手塚作品の虜になった。
全巻まとめて購入したお陰で、その後何度も読み返している。ここ数日で全17巻(秋田書店版)を読破した。1巻につき14編前後の短編が収録されているので、全200編以上になる。

独断と偏見で選ぶベスト3は
傷を負ったシャチとの物語「シャチの詩」、
ゲラというあだ名の少年が登場する「笑い上戸」、
義手の少年棋士「海賊の腕」。
命というシリアスなテーマを描きながら、キャラクターも個性豊かで笑いのエッセンスを忘れない。
冷血漢のイメージが強いブラック・ジャックも酒の付き合いが増える年末は律儀に電車で移動し、ピノコの不味い料理に舌を出す。シリアスなシーンで登場するヒョウタンツギや時折見せるおどけた表情は、手塚作品独特のスパイスだろう。
絶妙なストーリー展開もさることながら、背景まで行き届いた画力にも脱帽する。

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