トーカイ的食文化

友人と話していた折、東京には「金ちゃんヌードル」が無いことを確信した。同じく静岡出身の友人は無類の金ちゃん好きでコンビニに行くたびに探していたという。我々が東京に上京してから数年が経過していた。「やっぱりないよネ!?」とその場はわけのわからぬテンションに包まれた。お互いが(無いナー、やっぱり無いナー)と東京の片隅で疑問に思っていたことだ。

金ちゃんヌードルは静岡県では有名なカップラーメンだ。あっさりした醤油味のスープに真っ白い麺、小さなエビとふわふわの卵が浮かぶ。高級系カップラーメンと一線を画すその「まず旨い」感覚は食べたことのある人ならわかっていただけると思う。

ある友人氏が金ちゃんヌードルを食べながらおもむろにプラカップを分離し、透明になったカップを「ほれ、スケルトン!」と自慢気に披露された時、自分がまだ知らない金ちゃんの秘密があることに嫉妬した。言うまでもないが、彼も静岡出身である。

静岡では日常的に食べていた金ちゃんヌードルも、東京ではお目にかかれない。少なくとも今までには見たことがない。だから自分の中のナンバーツーである赤いきつねで我慢している。
帰省した際にそのことを祖母にこぼすと、後日箱詰めされた金ちゃんヌードルがどっさり送られてきた。うちの家族はいつもこうだ。一度好きと言ってしまったら求める量の数倍を提供してくれる。

実家から歩いて10分足らずのところにジャスコがあった。今では廃墟と化したジャスコだが、幼い頃は毎日のようにその「デパート」で遊んだものだった。商店街の中央に君臨するジャスコは自分の記憶から切っても切り離せないかつてのプレイグラウンドであった。
文具店でおもちゃのついた鉛筆を買い、地下の自動販売機で300円の風船を買った。硬貨を入れると空っぽの風船にプゥーッとガスが注入された。小学生に300円は高価だったがその過程がおもしろくてついつい買ってしまうのであった。

そしてジャスコの4階には「すがきや」があった。食券を購入しだだっぴろい食堂でラーメンをすすった。ちょっと高いところから景色を見ながらラーメンを食べるのはわくわくした。
観葉植物がポツポツと配置された閑散とした空間に、色気の無い大きなテーブルが並んでいる。厨房でラーメンを茹でるおばさんを眺めながら半券を片手にラーメンを待った。

すがきや」は東海地方にしかないと思われる食堂型飲食店だ。銀色のスタンドに入ったソフトクリームや白いスープのラーメン、看板にはお馴染みのキャラクター、すがきやスーちゃん。すがきやのラーメンにはラーメンフォークがついている。そのレンゲは半分フォーク、半分スプーンという変わった形をしていた。子連れが多い客層を反映してのものだろうが、すがきやの象徴的アイテムだった。

東海地方で生まれ育った自分には東京の澄んだ色のおでんが驚きだった。コンビニでバイトをしていた高校時代、そのスープの色を見ては不思議に思った。静岡ではおでんのスープは茶色い。
駄菓子屋では当然のようにおでんがあり、人々はおやつ代わりにおでんを食べる。プラスティックの白いトレイに乗せたおでんに「ダシコ」(鰹節の粉末)をかけて食べる。自分は底に沈んでもはや黒色に変色した「もつ」を好んだ渋い子供だった。

東京で生活しているとそのおでんが恋しくなる。おでんの茶色は何の色だったのだろうか?ある日、祖母におでんの作り方を教えてもらおうと実家に電話を掛けた。すると祖母は「スーパーでおでんのもとン売ってるでそれで作りゃーいいら」とあっさりとした返事だった。素直にスーパーで粉末の「おでんの素」を買い具材を煮てみたものの当然ながら静岡のおでんとは全く違うものが出来上がった。釈然としない気持ちのまま鍋をかき混ぜた。

そして昨夜は名古屋出身のお姉さん氏のナビゲートで新大久保の手羽先屋に赴き、思い切りトリを食らった。これまでは居酒屋のサイドメニューの「焼き鳥盛り合わせ」に付いてくる手羽先くらいしか食べたことがない。
手羽先の話題になると彼女は決まって食べ方を説明してくれる。「こうやって縦に持つのヨ」というジェスチャー付きだ。なるほど、手羽先を口に入れ、歯ですくようにすると手元には骨だけが残る。手羽先はアグレッシブな食べ物のようだ。新大久保で体験した手羽先はスパイシーで非常においしかった。

同じ東海地方出身というだけあって、彼女は「金ちゃんヌードル」も「すがきや」も知っている。そして名古屋に帰省した際にはお歳暮のような立派な「味噌煮込みうどんセット」をプレゼントしてくれる。その容赦ない濃い味にはやはり安心してしまう。それは東海人同士のちょっとした連帯感である。


本日の1曲
Everything Flows / Teenage Fanclub


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