『マイケル・ジャクソンと岡村靖幸。』

大学には就職課と呼ばれる棟があり、求人速報が配付されていた。新着の求人情報が印刷されたA4のプリントには募集職種、勤務地などの簡単な情報が記載されている。館内に数十台並んだiMacは全てインターネットに接続されていて、自宅にインターネット環境が無い学生はそこに貼付いて情報収集に勤しんだ。

当時新卒で採用されるチャンスだったにも関わらず、就職活動をする気は無かった。同じく気力減退も甚だしい友人と一週間に一度は就職課をひやかすが、我々に最初から応募する気は無かった。ただ周りに釣られていただけだ。

同じゼミに所属していた友人の大学ノートには、就職活動の履歴が記されていた。必要な提出書類のリストと採用までのスケジュール。不採用の連絡が来た企業のページには大きく『撃沈!!』と殴り書きがあった。ノートを見る限り、彼は連敗中であるようだった。
そんな彼も数カ月後には待望の採用通知を受け取った。聞くところによると彼は『俺はこの会社に入りたい!!』という文言が印刷されたポストカードを作成し、面接官に見せまくるという作戦に出たらしい。

彼の暴挙に飽きれると同時に、そこまでした彼をすごいと思った。何年も前から入社したくて堪らなかった会社ならともかく、数カ月前に名前を知ったような会社の面接でそんな大口は叩けない。内定はタフな人間にしか与えられないように思えた。

それでも何社かの採用試験を受けた。そのほとんどで書類選考に落ち、その度アパートのポストには『今後のご活躍をお祈り』する手紙が投函された。

学生達はこれみよがしに志望動機や入社後の展望を訴える。多くの志願者が殺到する大企業では全員を面接するのは難しいだろう。だから出来る限り書面で自分という人間をアピールしなくてはならない。履歴書の書き方や、面接の極意が書かれた書籍も買った。(下心が見えない程度にユーモアを混ぜた方がよいのではないか?)

大学生が背伸びをしたところでたかが知れているが、全ては相手に好感を持ってもらうための努力だ。一生懸命に企業の求める人材を研究し、書類を作成する。その末に不採用の手紙が来る。何度をそれを繰り返すうちに、その行程の全てが面倒になっていった。

ある会社でのグループ面接の際『好きなミュージシャンは?』との面接官の問いかけに『マイケル・ジャクソンと岡村靖幸。』と答えた女子がいた。同年代にしては少しずれている気もする。しかし面接官は彼女の真剣な答えに好感を持ったようだった。その好意を含んだ眼差しを見て一層困惑した。

『マイケル・ジャクソンと岡村靖幸。』という答えは彼の中では模範解答だったのだろうか?クリエイティブ職ならアリなのだろうか?
その帰り道。考えれば考える程わからなくなり、次第に考えている自分が嫌になってきた。そしてそれ以来、面接を受けるのをやめた。


本日の1曲
どぉなっちゃってんだよ / 岡村靖幸


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