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なかなか閉まらない店

子供の目線の低い棚に所狭しと並べられていたあらゆる文房具。ファンシーなシールやキャラクターの印刷されたメモ帳、”におい玉”の入った鉛筆キャップやロケットペンシル、カラフルな香りつき消しゴム。子供にとって文房具は勉強のためだけの道具ではない。

放課後には誰からともなくその店に立ち寄り、文房具を物色した。そういえばその頃、猫のフェリックスのキャラクターがお気に入りでカンペンや線引きもお揃いで使っていた。真新しい文房具はキラキラと鮮やかで消しゴムの角は使うのもためらわれるほど完璧な形状だった。

だからある日突然『閉店』の貼り紙が貼り出された時はちょっとした騒ぎになった。小学校の正門向かいにあった文具店は歳老いた夫婦が営んでいて、建物も随分と古い。店の名前の看板も記憶になく、木造の民家のようだった。子供があまり好きではないのか、ただ面倒臭いだけなのか、店番の老人は勘定の時しか声を発さなかった。笑顔を作るわけでもなく、消え入りそうな声でおつりを渡した。

しかし、閉店の貼り紙がされてからも店は営業を続けていた。店の様子も店番の老人にも変わった様子はなかった。日に焼けて黄ばみ、端のセロテープがパリパリになっても閉店の貼り紙はずっとそこにあった。

最初のうち、なかなか閉まらない店は皆の話題だった。高学年になるにつれて、ファンシーな文房具に興味が無くなり、地元のデパートで文房具を買うようになった。当時は文具メーカーがこぞってキャンペーンをしていて、大人用の文房具にもおまけがついていた。子供達はおまけを夢中で集め出した。

最初に貼り紙がされてから数年後、ある日気付くと店のシャッターは閉まって、二度と開かなくなった。皆は店の閉店に気付いていないみたいに、話題にならなかった。


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奇跡の街 (RADIO FREAK EDIT) / ストレイテナー

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