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7割と繋がる足元

子供の頃、地球上の7割を海洋が占めているという事実を知った。そして自分の立つ大地よりも広くて果てしないものの存在に驚いた。海は無限に広がるように思われた。海底には子供たちの知らない生物が生息し、生態系を構築している。それを神秘と形容する人もいるけれど、自分にとっては恐怖の権化に過ぎなかった。

墜落した旅客機、沈没した客船、沖で行方不明になったボートやセスナ。広くて深い海洋に存在する死者の魂や、海底で朽ち果てた人工物の塊。
その陰で巨大な生物がひっそりと息をひそめているだろう。光の届かない深海で、鈍い色のぬめった巨体がうごめいているに違いない。誰にも知られることのない生物。
なんて孤独なんだろう。次々に想像しては、恐怖で縮み上がった。

家族と大阪の海遊館に出掛けたのもその頃だった。水族館の目玉、ジンベエザメは自分の背丈よりあろうかという巨大な口を持っていた。無表情で、這うように水中を進む鉛色の生物。それに群がる小魚や小さいサメ。言葉を話さぬ海中の生物たちを目の当たりにして足がすくんだ。

分厚いガラスの水槽の向こうには沈黙の世界が広がっていた。この水槽が崩壊したら、自分も家族も、ここにいる幸せそうな人々も、沈黙の世界に飲み込まれてしまうのだ。

物心ついてから、数えるほどしか海で泳いでいない。海に入らない理由は他にもいくつかある。海水がべとつく。着替えがめんどくさい。鼻がツーンとする。体質的に日焼けが苦痛。そもそも暑い夏が苦手ときている。

目の前で足を浸した海水は地球の7割と繋がっていて、その先に横たわる孤独を想像した日から海が怖くなった。子供の頃に感じた恐怖の感情は、未だに根強い。


本日の1曲
Motion Picture Soundtrack / Radiohead

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