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メキシコ産の彼

『メキシコ産なんだって、オレ。』
『メキシコ?メキシコってあのメキシコ?』
『そう。”あの”メキシコ。』

我々の住んでいた町には、インターチェンジがあった。インターチェンジを降りた大型トラックが決して広くはない田舎の畑道を飛ばしている。畑の脇の乱暴に折れ曲がったガードレールが交通量の多さを物語っている。

インター近くには、摩訶不思議な建物がいくつか建っていた。幼い頃、車で通りかかるたびに目を奪われた。遊園地かアトラクション施設のようにも見える。それは洋菓子のようでもあり、絵本に出てくるお城のようでもあった。夜は建物全体が電飾でデコレーションされ、看板が派手に光っている。

しかし昼間に見る建物は異様だった。建物は一様に古ぼけていて、外壁の塗装は所々剥げている。昼間の真っ白い光に照らされると、夜の間の魔法が解けてしまったように素っ気なかった。それらの建物には唐突で、何の脈絡も感じられない名前がついていた。

駐車場に入る太いビニールののれん。車はこっそりと奥に吸い込まれていき、薄汚れたのれんがボンネットを撫でる。
子供の頃はその建物がなんなのかはっきりとわからなかった。けれども家族には聞いていけないような、いかがわしさは理解していた。

彼の両親は、時々居なくなったらしい。両親の留守中に彼の家にやってきた親戚のおじさんは、『まーたどうせメキシコだろ。』と言い放った。彼がその真意を理解したのは、随分あとになってからの話だ。


本日の1曲
sweet memory / エレファントカシマシ

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