TEN-NEN

アイドルの全国ツアーを追っかけると、数十万単位で金が飛んでいくらしい。ただでさえ高いチケットに交通費や宿泊費を加算するのだから無理もない。
だから当然金が無い。それがわかっていても、ツアーの最中に自宅にいることは耐えられないはずだ。彼女達は迷いなく飛行機で北の大地に飛び、新幹線で浪花の地に降り立つ。

彼女たちにとっては出待ち、録音当たり前。いい歳をした大人でありながら、善悪の判断も怪しい。こうしたら喜ぶんじゃないか、悲しむんじゃないか、という想像には及ばない。その代わりに、面倒で長たらしい自論を展開することもない。重要なのは、歌い手のヘアスタイルや新曲のチャート、目撃談と噂話。

ツアーの間は仕事を休み、良席のチケットを定価の何倍もの金額で手に入れる。追っ掛けのためなら、お金は惜しまないとでも言うように。
自分の知る何人かの追っ掛けガール達はうだうだ考え事をしない。人々が世間を憂い、人生の難題に煩悶している間も、次のツアーに向けてダフ屋と合コン、スカートを新調してファン仲間とオフ会。彼女たちの日常は忙しく、バラエティに富んでいる。

天然。決断は実に簡潔で、後悔の余地がない。発言の余りの軽薄さに愕然とする時もあるが、こちらの困惑にすら気がついていないようだ。
普段ならすかさずツッコミを入れたくなる数十万の出資も、自分達の行動に疑問を持たない彼女達には通じない。

彼女達は(誰も本当の私を判ってくれない)なんていじけたりしないし、(このままでいいのかな)とか、(この先どうしよう)とぼやいたりもしない。
彼女たちの目的は明確で、そのための手段はいくらでもあるかのように思える。何をしたらよいのかがわからない人が世の中には大勢いるというのに。

人の目を気にしない。後ろめたさも感じない。堂々巡りの自問自答はしない。面倒なことに足を突っ込まない。悲壮感がまるで漂っていない。
中途半端に芽生えてしまったエゴは切ない。考え抜いた結論を放棄するくらいなら、最初からそうして吹っ切れてみたい。


本日の1曲
日常に生きる少女 / Number Girl


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