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ティーンエイジャーと夕食を

新宿駅付近にはショッピングビルが建ち並び、上階には決まってレストランフロアがある。すぐに電車に乗って帰れるのはこの上ない立地かもしれない。仕事を終え、同僚氏と食事をして帰ろうということになった。週末の夜は特に混むが、平日だってやはり混んでいる。店の外に行列が無いだけだ。

以前行ったことのあるパスタ専門店に行くことを決め、エレベーターに乗り込んだ。しかしフロアに降り立つと、最初に目に飛び込んできたのは違う店のパスタのディスプレイだった。
その店にはピザのようにパスタにサイズがあった。M、L、LL、どれを頼んでも値段は変わらない。大皿に盛られたパスタには580円の値札がついていた。それは当初の予定の半額以下で食べられる夕食だった。

我々は目を輝かせた。店内をくまなく照らす真っ白い蛍光灯の明かりにひるみもしたが、その安さに勝るものはない。お互いに金欠で、つい先程まで外食すらためらっていたからだ。
真ん中のテーブルに案内された我々は嬉々としてメニューを眺めた。長時間の労働を終えたばかりで腹が減って仕方がなかった。

その店でティーンエイジャーではないのは我々だけみたいに思えた。入り口にあれ程「取り分けはご遠慮ください」と注意書きが出されているのにも関わらず、若いカップルは一つの皿をつつき、女子高生は目の前の麺をペタペタといじりながらお喋りに夢中だった。

テーブルにはおしぼりも紙ナフキンも無い。プラスティックのコップで出された水には氷すら入っていない。それは紙コップみたいに軽かった。ある店員の着ていたTシャツには妙なキャラクターが描かれていたが、見ると店員達は皆同じTシャツを着ていた。統一感のない稚拙な空間は託児所を思わせた。我々は段々と無口になっていった。

黙々とLサイズのパスタを平らげ足早に店を出た。ホームへ向かいながらいつもの店に行かなかったことを後悔していた。
すると同僚氏は一瞬神妙な顔を見せた後『・・・忘れよっ!』と歯切れ良く言い、精一杯の笑顔を作ってみせた。食べたばかりのパスタがまだ腹で渦巻いているというのに。

それは青春ドラマで取り返しのつかない失敗をした主人公を励ます親友みたいな、嘘っぽい笑顔だった。


本日の1曲
ルイジアナ・ボブ / マキシマムザホルモン

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