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19歳のいびつな朝焼け

友人達と連れ立って何度か近所のマンションの屋上に忍び込んだことがある。それは東京に住み始めた年の出来事で、まだ19歳だった。
その頃、立川にある美術予備校で毎日絵を描いていた。全国各地から生徒が集まり、皆が一人暮らしをしていた。同じ境遇の生徒達はすぐに打ち解けた。

夜明け前。辺りはまだ暗く巨大なマンションはしんと静まり返っていた。入居者に気付かれないよう注意しながら柵を越え、屋上に降り立つと眼下にポツポツと灯のともる武蔵野の景色が広がっていた。下の通りにはタクシーやトラックが時折通り過ぎた。

そのうち僅かにに地平線の際が光り、太陽が姿を現した。強い光はあっという間に地平線いっぱいに広がり、大気は瞬く間にグラデーションに包まれた。色彩は一秒毎に変化し、瞬きしている間にも刻々と色が変わっていく。色づいた大気が屋上に立つ若者をぐるりと囲んだ。

言葉を失うほど美しい朝焼けだった。何時間か後にはガヤガヤと騒々しい街に変わるなんてにわかに信じられない。その大気はまだ誰にも汚されていないように思えた。

『オレらがどんだけ絵を勉強しても、この色は出せないよなぁ』とそこにいた一人が言った。彼が溜息混じりに発した言葉はとても恥ずかしく響いて皆が笑った。ほんの数分の間に街の輪郭は露わになって朝がやってきた。

ー東京には空が無い。
余りに有名なこの言葉で東京の空はしばし語られる。地上から見る空は四角い。透き通っているはずの空の色も、灰色のビルディングとコンクリートに挟まれれば濁って見えるかもしれない。それに東京の地平線は凹凸だらけだ。
しかし東京には東京のいびつな空がある。そしてその風景を何より詩的に思う。


本日の1曲
キャノンボール / 中村一義

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