勝利したドライバー

2005年のF1アメリカグランプリで出走20台中14台が棄権するという前代未聞の出来事が起こった。
ミシュランタイヤを装着したあるマシンがフリー走行時に最終コーナーでバーストによりスピン、クラッシュした。その事故をうけてミシュランタイヤの欠陥が発表されたが、当時は半数を超えるチームがミシュラン製のタイヤを装着していた。

ドライバーの安全を第一に考えると、危険な可能性のあるタイヤでレースを走らせるわけにはいかない。新たにフランスからタイヤを空輸しても決勝には間に合わない。F1は全世界の企業、メディアが関わっている。開催日を直前になって延期するわけにもいかないのだろう。

ミシュラン側は対策タイヤの要請と、マシンを減速させるために最終コーナーにシケイン(カーブ)を設けることを提案した。しかしFIA(国際自動車連盟)はこれを却下、従来通りのレース続行を決断した。

決勝直前、20台のマシンがコース上に出て行った。しかしスタート直前のフォーメーションラップ(1周目)を終えると、スターティンググリッドにつくはずのマシンが次々とコックピットに戻っていった。ミシュランタイヤを使用する全チームがFIAの決断に抗議しレースを棄権してしまったのだ。

前代未聞の事態だった。スターティンググリッドについたマシンはブリヂストンタイヤを履いたわずか3チーム(フェラーリ、ジョーダン、ミナルディ)たった6台だけだった。
普段はエンジン音がこだまし、陽炎に包まれるスターティンググリッドも閑散としている。そしてのちに『F1史上最悪』と言われるレースがスタートした。

会場はブーイングに包まれ、コース上には興奮した観客によって物が投げ込まれた。この日を楽しみにしていたファンにとっては深刻な事態だった。何しろほとんどのマシンが棄権してしまったのだから。
解説者も動揺した声色で状況の説明に必死だった。今テレビをつけた視聴者は無表情に走る6台のマシンと怒り狂った観客の姿に驚くだろう。

レースはシューマッハとバリチェロ率いるフェラーリのワンツーフィニッシュ。通常のレースでも上位に食い込んでくるであろう2台だった。対してジョーダンとミナルディは通常のレースでは表彰台には縁遠いチームであった。

4位に入賞したN・カーティケヤンは飛び上がって喜びを露わにしていた。彼はこれまで何度も『インド人初のF1ドライバー』とアナウンスされていた。このレースを走りきったことで、彼は初めて『インド人としてレースに入賞したドライバー』となり、ジョーダンに貴重なポイントを稼ぎ出した。

トラブルがあろうとも、結果は不動のものである。レースを棄権するのも意思があってこその判断だ。残されたもの同士で勝負をして順位は決まる。
周囲の動揺をよそに、感無量の表情でガッツポーズを繰り返すインド人のドライバーを見ていると、勝負の意味を問われている気がした。


本日の1曲
Monster C.C / The Pillows


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