数百の目眩

ものすごい形状記憶っぷりだ。カップをモミモミ、ペコペコしながら特許の塊のようなブラジャーを見つめる。少し目を離した隙にブラジャーは驚くべき進化を遂げていた。
もっとも世の中の大多数のブラジャーは未だにモコモコしている。華美な刺繍はストラップ部まで達し、谷間にはラブリーなチャームがゆらゆら揺れている。女性達が「かわいい」を基準に選んだブラジャーを外す時、男性がどこまで凝視するのかも疑問である。

ブラジャーは花柄が多い。新たなモチーフやプリント加工への積極的な取り組みがあってもよいと思うのだけど、とにかく現在ブラジャーは花柄と相場が決まっている。小さなカップのブラジャーの小花柄も大きなカップになると人食い花のようにケバケバしい。

彼女は安物の下着は身につけたくないようだ。納得のいく下着を買おうと思えば、万単位で金が飛んでいく。着ている洋服より高価なことだって珍しくはない。例え見られることを期待していなくても、自分の目は誤魔化せない。折角高い下着を買っても、縫い目がほつれたり、毛玉を発見した途端にテンションが落ちる。自己満足こそが女を育てるのである。

デパートの催事場では下着のご奉仕品達が我々を出迎えた。ご丁寧にサイズ毎にブースが分かれていて(そうなんだろうな)というサイズの人々が相応の棚の前で熱心にブラジャーを掘り起こしていた。小さなカップのブラジャー達は整然と行儀良く並んでいたが、大きなカップになるほど、商品が乱れている気がする。
下着売場では年配のベテラン販売員に注意が必要だ。購入の相談をしたら最後、彼女たちは客のブラジャーサイズを何度も大声で復唱しながらセールストークを開始してしまう。

その日、どうしてもブラジャーが欲しい!と鼻息の荒い友人氏と共に下着売場をうろついていた。デパートやショッピングモール、小さな商店までブラジャーを見つければ即入店する。それは何百のブラジャーを目眩がしそうな程見つめた一日だった。


本日の1曲
Why Not Nothing? / Richard Ashcroft


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