渋谷の人

”働いているうちに、その街の人になっていく”
少し前に駅で見かけた求人雑誌の広告のコピーはやけに印象的だった。
新宿御苑でアルバイトをしていた時も、新宿副都心で働き出した時も、勝手を知らないエリアに飛び込み、やがてそのエリアが日常の一部になる感覚を味わってきた。その広告のコピーは自分が何度か味わってきた実感が含まれていて、静かなインパクトがあった。

今日から渋谷の人になった。通勤定期だって買い直した。これまで縁があまりなく、華やかさを倦厭していた渋谷で働くことになったのである。
高円寺に越してきてから渋谷がぐんと近くなった。映画館や、ショッピングに行く機会が増えてはいた。友人宅との中間地点で会う時は渋谷が選ばれることもあった。

しかし渋谷に向かうのは、ライブがある時や単館上映の映画を観に行く時くらいだった。デパートやショッピングビルは手前の新宿にいくらでもある。
それに同じ距離であれば吉祥寺へ行く。渋谷の雑踏と若者たちの熱気はこちらを疲れさせるのに充分で、自分の街でない感覚が根強かった。終電近くにどっと人が乗り込む山手線も好きではなかった。

初出勤の朝、ハチ公に挨拶をすることにする。異業種への転職で不安がいっぱいだった。誰かに頼りたくなっていた時に現れた有名な忠犬が頼もしく見えた。
人でごった返していた帰り道、初日の勤務が無事終わったことをハチ公に報告する。

東京に住み続けていてもまだ知らない街ばかりだ。東京にはエリア毎に個性があり、その個性のお陰でどんな人でも居場所を見つけることができる。しかし街のカラーに気付いてしまうといつしか行き場所は決まってしまう。
とにかく今日から「渋谷の人」になった。


本日の1曲
MY FOOT / The Pillows


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