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村上春樹 『ニューヨーク炭鉱の悲劇』

詩人は21歳で死ぬし、革命家とロックンローラーは24歳で死ぬ。それさえ過ぎちまえば、当分はなんとかうまくやっていけるだろう、というのが我々の大方の予測だった。(〜中略)

我々は髪を切り、毎朝髭を剃った。我々はもう詩人でも革命家でもロックンローラーでもないのだ。酔払って電話ボックスの中で寝たり、地下鉄の車内でさくらんぼを一袋食べたり、朝の四時にドアーズのLPを大音量で聴いたりすることもやめた。

『ニューヨーク炭坑の悲劇』 短編集 ”中国行きのスロウ・ボート”収録

28歳の「僕」は立て続けに知人を亡くしてゆく。その度にいくつかの形式的な手続きと葬式が繰り返された。若い知人たちはある日を境に彼の前から居なくなり、二度と姿を見せなかった。

上京してから大学を卒業するまでの6年間、(偉大なる両親によって)大学と不動産屋に大金が納められ、住む家に困ることもなかった。大学に合格した時、せめて4年間は面倒な事を忘れて夢を見ようと心に決めたのを覚えている。

今では「若者」と呼ばれる年齢を過ぎかかり、多少の収入を得、一応は自立している。自分の性質にうんざりしながらも、もう高すぎる志に戸惑うこともない。
ミケランジェロのように有り余る才能を持って生まれたならばもうとっくに溢れ出ているはずだ。そういえば村上氏自身も28歳の時はまだ小説家ではなかった。

しかし何者でもないという感覚はしばし若者を悩ませる。
友人は、自分の生活がひどく味気なく感じると呟いた。それはお互いが大学生だった頃の話だ。

授業は退屈で、他の学生には適当な相槌を打っているだけだと言った。週の半分は深夜までアルバイトをし、信頼できる何人かにだけ口を開き、一人で食事に出かけ黙って食事をした。部屋で読書をし、酒を飲み、コインランドリーに行き、時々離れた場所に住むガールフレンドと電話をした。

彼は世間的に目立つわけでもないし、大袈裟な理想を掲げたりもしない。欲望に駆られて道を踏み外したりもしないし、トラブルに騒ぎ立てたりもしない。彼は黙って苦痛を受け入れるタイプの男で「僕」に似ていなくもない。

彼の呟いた言葉と共に、この短編がやけに頭にこびりついている。作品を初めて読んだのは大学生の時で、28歳は少し先の未来だった。
今ではその『伝説の不吉なカーブ』を過ぎ、今の所詩人でも革命家でもロックンローラーでもない生活を送っている。


本日の1曲
For All The Cows / Foo Fighters

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