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森山大道 〜野良犬の目線〜

それまでに知っていたモノクロ写真といえば、淡い色彩の平和的な写真でしかなかった。浪人時代に初めて森山大道の写真を見た衝撃は忘れられない。
その頃ヒステリックグラマーから写真集が発売され、若者を中心にその注目度は増し、森山大道の写真の衝撃は現代にも広められることとなった。そして自分もその写真に心酔した。

その表現手法は「アレ・ブレ・ボケ」と称される。粒子は荒れていて、対象はぶれ、ピントはぼけている。真っ黒に焼かれたハイコントラストの風景はグラフィカルですらある。彼独特の這うような目線で街の表層は露わになり、ざらついた質感で都市風景はまるで荒野のようである。

森山氏は1938年に大阪で生まれた。高校中退後、グラフィックデザイナーとして独立。大阪のデザイン事務所に数年間勤務し、その後写真家を志し上京。写真家細江英公のアシスタントとなる。当時は家も無く、「ボストンバックの手提げの輪に片足を通して膝の上まで引っぱり上げ」新宿の安宿で夜を明かしていたという。

当時右翼系雑誌記者であった中平卓馬と意気投合し、写真の世界にシフトした中平氏らと同人誌『PROVOKE』を創刊。作品は非常にアヴァンギャルドかつファッショナブル、もっと言うとその登場はセンセーショナルでスキャンダラスだった。メンバーに誘われなかった荒木経惟が嫉妬したというエピソードがあるくらいだ。日本の写真史において伝説的に語られる『PROVOKE』だが約1年後に休刊。自主ギャラリーCAMPを設立し写真家としての本格的スタートを切る。

若い頃「ツイードのジャケットの内ポケットに三百万円の現金を入れて」パリを訪れたり、暗室で破天荒なバケツ現像をしたりと森山氏のハードボイルドさにはやはり憧れてしまう。ポップアートにも感銘を受け、その作品展開や展示方法にもポップアートの手法が取り入れられている。自分にとっては何もかもが目新しく、氏の生き様に憧れた。

森山氏は野良犬のごとく街をうろつきシャッターを切り続ける。代表作が多数生まれた「激動の六十年代」を知らない自分にそのエネルギーはたたみ掛けるように迫ってくる。古い看板や雑然とすら街並みは時代を感じさせるモチーフであるし、学生闘争の最中の新宿東口の光景などにただならぬ熱気を感じたものだ。
彼が切り取る都市風景には肌の質感や、情事や、荒々しいバイクのエンジンや、掃き溜めの殺伐がごったまぜになっている。ポルノ映画の看板とプリントシャツを羽織るヒッピーが街に溢れていた時代だ。それらはモノクロの写真であるがヴィヴィットな色彩を感じることができる。

ならば彼の写真は60年代の空気があってこそのものなのだろうか?彼はその時代の写真家でしかないのだろうか?
一瞬沸いたその疑問も近年の作品を見てすぐに消えていった。彼の写真からは依然として強烈な街のエネルギーと混沌を感じたのであった。森山の写真には常に荒涼とした時代の風景が映る。彼の前に一瞬凝縮したような空気は重く、色気すら湛えている。

昨年の『森山・新宿・荒木』展の会場で両氏の撮影風景を追ったドキュメンタリーが放映されていた。周りの人間を取り込みながら、賑やかに街を練り歩く荒木氏とは対照的に、寡黙にシャッターを切り続ける森山氏の姿は印象的だった。彼はいかがわしさに向かって歩き続けていた。
驚くべくことに街の撮影行為において彼はファインダーを覗かない。コンパクトカメラの長いストラップを手首に巻き付け、まるで身体の一部であるかのようだ。そのスタイルは一見して写真を撮っているとは思えないスタイルだ。数万回のシャッター寿命を超え彼は何台もカメラを「使い切って」しまう。路地裏を彷徨う野良犬のごとく、街をうろつきながら写真を撮る。

新鋭写真家としてその名を轟かせる前、逗子に暮らしていた森山氏は近所に住んでいた中平氏と連れ立って海へ泳ぎに出かけていた。泳ぎ疲れるとビニール袋に入れて持ってきた数冊の写真集を前に日々写真談義を展開した。そして片っ端から他人の作品を罵倒した。曰く「言葉の血祭り」に上げたのだ。彼等は今まさにオノレの若い感性と独論を写真界に叩き付けようとしていた。そして共著で『写真よさようなら』という作品を発表した。これまでの写真と決別し、新たな世界を提示した問題作だ。

そして来月ついにその『写真よさようなら』が復刊される。今も尚写真界の異端児であり続ける森山の、若さの葛藤を目撃したいと思う。


本日の1曲
自問自答(From Matsuri Session Live At Yaon)/ ZAZEN BOYS



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【 森山大道に関するおすすめ書籍 】

森山・新宿・荒木
■ 森山・新宿・荒木
昨年オペラシティー・アートギャラリーで
展覧会も開催された森山大道・荒木経惟共
作写真集。
新宿をこよなく愛し、主に酒場を渡り歩く
二人ならではの企画。新宿の「ごった煮」
感はこの街の魅力です。この二人に撮って
もらえるなんて新宿も幸せもの。


犬の記憶終章
■ 犬の記憶終章
文章にも才を発揮する森山氏の『アサヒグ
ラフ』誌の連載をまとめたエッセイ集。
パリ、新宿、逗子、など各地に関する森山
氏の回顧録。どれも短編小説のような読み
応えで森山氏のファンはもちろん、今はそ
うでない人もきっと面白い。
文庫版もあります。

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