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打ち明け話

皆でお揃いの黄色いTシャツを着て大きなリュックを背負い、大井川鉄道のSLに乗り込む。それは小学5年生の夏のキャンプの記憶だ。数十人の小学生がそれに参加していた。世話役の少数の大人と、地元の高校生が同行した。おそらく青年会議所が主催したそのキャンプには「わんぱく合宿」という名前が付けられていた。

はんごうでご飯を炊き、大きな鍋でカレーを作った。まな板の上で野菜をぶつ切りにしていると知っているおじさんがやってきて『いつも手伝ってるっていうのがわかるナァ!切るのがうまい!』と周りの人々を捲し立て自分を褒めたが、料理の支度など手伝ったこともなかった。何を根拠にそんなお世辞をいうのか(大人って結構いい加減だな)と思ったのを覚えている。
何かレクリエーションがあったかもしれないが、そのキャンプで行われた細かなイベントは思い出せない。

夜は、川岸にテントを張ってそこに泊まった。ひとりで川岸に腰掛けてぼんやりと川を眺めていた。用意されたライトの光もここまでは届かない。背後ではガヤガヤと人の声が聞こえる。すると、ひとりのお姉さんが歩いてやってきた。彼女は隣に腰掛けた。

ひとりで川岸に座っている間、何を考えていたのかは思い出せない。しかしながらこの時、彼女とした会話はよく覚えている。それは、初めて家族の悩みを他人に打ち明けた日だった。

彼女は後に自分が通うことになる島田高校の学生だった。身なりはさっぱりしていてストレートの髪を肩の上で切り揃えていた。皆と同じ黄色のTシャツにジーンズを履いていた。そのお姉さんは清潔な感じのする美人で好感を持った。

小学生の世界は狭い。近所の幼なじみと、学校のクラスメイトと、家族だけだ。抱えている悩みを一度口にしてしまったら今まで取り繕ってきたことが台無しになってしまう。それまで誰かに対して心を開くということが無かった。兄弟もいず、学校の先生は片親の自分をひいき目で見ている気がした。

ボソボソと話をしている間に、握った石は次々と乾いていった。そしてまだ濡れている石を探してはそれを握るのを繰り返した。乾いていく石に自分の心の動揺を感じてそれを悟られまいと必死だった。
お姉さんは話を静かに聞いてくれた。そして話が終わると「行こ。」と言い自分を皆の輪に連れて帰った。

その後高校2年生になるまで家族の悩みを誰にも話すことはなかった。
その時、自分に向けて語り始めた彼もまた、その重大で彼を苦しめ続けていた悩みを他人に打ち明けるのは初めてだった。だから自然に、こぼれるように言葉が出てきた。

キャンプのお姉さんのことを今でも時々思い出す。互いの顔もよく見えないような状況で静かに流した涙の感触と、川向こうの黒々とした木々の重なりの風景を今でも鮮明に思い出すことができる。


本日の1曲
Close to you / The Carpenters



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