決死のエイトボール・マッチ

学生の頃は国分寺駅近くのビリヤード場『モナコ』に通い、実家に帰省した時は夜な夜な隣町のビリヤード場まで車を走らせた。マイキューを持って誘いに来る友人もいた。貧乏生活をしながら、何故彼はマイキューを購入したのだろう。

ビリヤードは1時間500円程度で遊べ、大抵朝まで営業している。国分寺には学生が多いからか、モナコは結構繁盛していた。
ゲームの時はいつも壁際に設置されていた年代物の自動販売機のジュースを賭けていた。そこに並んでいる飲料も見事に時代遅れのシロモノだった。

我々はいつもエイトボールをした。15個ある球から8番を抜いた7個ずつをお互いの手玉とし、次々に相手の球をポケットに落としていく。
試合が終盤に差し掛かるに連れてヒートアップしていった。それは待ち構える罰ゲームを逃れる為だった。

ゲームの敗者はジュースを自腹で購入した後、勝者の前にひざまずき、プルタブを開け商品を差し出す。そしてその時、ワンギャグを言わなければならない。これが屈辱的な罰ゲームであった。最早ビリヤードに行くと決まった時からそのギャグを考え始めている。

敗戦が決まって、カバンから財布を取り出し、絶望的気分で自販機へ向かう。そして台に帰ってくるなり、急場のしのぎで考えた痛々しいギャグを思い切り披露しなくてはいけない。言ってしまった後は羞恥の念に苛まれる。相手にギャグを無視されると尚更ダメージが大きい。(もちろん意図的に無視をして相手を陥れるという上級テクニックもある)

そんな我々の有様は常連のおじさんの目にもとまったらしく、おじさんは『この子達いつもゲーム終わるとジュース買いにくるんだヨー。わっはっは。』と仲間に紹介していた。

現在の我が家の窓からは隣のビルのビリヤード場が見える。狭い道路を隔てただけであるから、ビリヤード場のロールスクリーンが上がればビリヤードの台まではっきりと見ることができる。
夜な夜な聞こえるブレイクの音と人々のざわつきを微かに感じるのも悪くない。


本日の1曲
夜行性 / Original Love


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