静岡の真っ黒おでん

『これって・・・こういう色なんですか?』
そう尋ねたのは自然な成り行きだった。簡素なステンレスのしきりにぶちまけられたおでんは白かった。スープにもとろみがなく、見るからに薄味の予感がする。
ちくわぶ・・・なんだそれ。
高校生の時、コンビニエンスストアでアルバイトをしていた。バイト先で初めて迎えた冬。ちょうどその頃、コンビニでおでんが販売され始めた時分だった。それは静岡おでんに慣れていた自分が初めて目撃した全国区のおでんだった。

静岡の駄菓子屋にはおでんがある。駄菓子屋におでんがあることに驚く人がいることを上京して初めて知った。駄菓子に群がる子供を横目に近所の主婦が右手を顎にあてて、おでんダネを吟味しているのは日常的な光景だった。静岡人はおやつ感覚でおでんを食べる。溝の入ったプラスティックの皿におでんをとり、たっぷりと鰹節の粉末をかけて食べる。

静岡のおでんは黒い。魚屋の店先で買うおでんも、家庭のおでんも、もちろん駄菓子屋のおでんも、皆どす黒い。その中に漬かったもつ、なると、こんにゃく、たまごはやっぱりどす黒い。祖母曰く、茶色は牛すじのダシの色らしい。
ついでに言うと静岡ははんぺんも黒い。いわしで作られた黒はんぺんは我が家の冷蔵庫には常に鎮座していた。生はもちろん、醤油をつけて食べる黒はんぺんのフライは定番料理のひとつだった。静岡でははんぺんと言えば黒がスタンダードだった。

本日、スーパーを巡回していると飛び込んできた商品があった。黒々と『静岡おでん』と書いてある。そして人知れず動揺する。二度見。商品名に堂々と静岡の地名が記載されるなんて、お茶とみかん以外にあまり見たことがない。やはり静岡のおでんは個性的だったのだ。

静岡なんて嫌いだと散々言っておきながら、その商品に胸騒ぎを覚える。静岡の真っ黒おでんは、にわかに脚光を浴びているのだろうか。

本日の1曲
Consumed By Laziness / Hot Rod Circuit


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