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酒場人間模様

そこは友人宅が経営する小料理屋。店内のカウンターにはお客さんがずらりと並んでいる。ひとり暮らしで家庭料理に飢えているのを気遣って、ママ氏は気さくにお店に誘ってくれる。酒を飲めない替わりに、目の前に出される怒濤の料理の数々。

入店してすぐに一人のおじいさんがお店にやって来た。会うのは初めてだったけれど、皆は親しみを込めて「カシラ」と呼んでいた。カシラは何故か紺色のハッピにワラジのお祭りスタイルだった。カシラは町内会の長(おさ)であるらしかった。

入店した時点でカシラは泥酔状態だった。皆の呼び掛けに満面の笑みで答えている。時折短い言葉を発するだけで、赤ベコみたいにニコニコと頷いている。呼びかける方も泥酔しているので、コミュニケーションは成立しているみたいだった。
そのうちカシラは焼酎の入ったグラスを派手にぶちまけ、ママに怒られながらニコニコと帰って行った。カシラが去った後はカシラの手荷物だけが座敷に残されていた。

カウンターの上に小さな工芸品を広げているおじさんがいた。趣味でステンレスを加工した繊細な作品を作っているおじさんで、友人氏の携帯にくっついている猫の作品を見せて貰ったばかりだった。精巧に作られた作品は商売が成立しそうな程完成度が高い。どうやって作っているのだろう?

おじさんは誇らしげに作品を語ったかと思うと『・・・もう作らないけどネ』と思わせぶりな含み笑いをした。何故もう作品を作ることができなくなってしまったのかは聞いてはいけない気がして『そうなんですか』と言っておいた。

誇らしげに作品を語る→思わせぶりな含み笑い→また誇らしげに語る→含み笑い→誇らしげ→含み→・・・の連鎖が始まり、何度も『そうなんですか』と言い続けた。そして随分時間が経ってからようやくおじさんが泥酔しているのに気付いた。ママはくどい!と怒っていたけれど、おじさんはしょんぼりしながらも同じ話を続け、たまに職場のグチをこぼした。結局最後までどうやって作っているのかは教えて貰えなかった。

入り口の戸に掲げられた「会員制」の文字。一人で歩いていたら緊張して入店できないようなその店に、実は月に1度程通わせていただいている。
居を転々とする東京暮らしで、東京という「地元」に住む人々と触れることもあまりなかった。田舎と同じように、中野には中野の町内会があり人間模様がある。今夜もちょっと緊張しつつ扉を開けた。


本日の1曲
Automatic Stop / The Strokes

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