おばあちゃん、来たる。

高円寺のこの部屋にまだ祖母は来たことがなかった。時々東京に遊びにやってくる両親は一度この部屋に立ち寄ったことがある。両親からの報告を聞いて、祖母は早く来たがっていたが、今までタイミングが合わなかった。
一ヶ月前には職場に休みを申請しなければならないし、祖母が骨折したとか腰が痛いとか、お互いの理由で東京訪問は延期されていたのだった。その間に高齢の祖母がいつ来てもいいように、木製の椅子を買った。

そして久し振りに祖母が東京にやってきた。待ち合わせの時間を遅刻して新宿駅のホームに着くと、キヨスクの前に祖母が立っていた。会うのは正月に帰省した以来だったが、また一回り小さくなった気がした。

祖母が我が家にやってくるのは、4年振りくらいだった。その時はまだ国分寺のアパートに住んでいて、祖母は駅からの長い坂道を嫌った。高円寺は新宿からも近く、我が家は駅からも近い。商店がたくさんあって便利そうだと、祖母もこの家が気に入ったみたいだった。

折角東京に来たのだから、どこかへ行こうと提案してみても家から出たがらない。昼間はずっとNHKを眺め、食事時になると外食するために部屋を出た。
初日の夜、横浜からやって来た大学生の従兄弟と3人で居酒屋に行った。ホームページに掲載されていた割引券をプリントアウトして持っていくと、祖母は感心していた。

居酒屋に初めて来た祖母は『こういうとこは不良が来るとこだと思ってたけど、いいもんだねぇ。』と言って、店内をぐるりと見渡した。刺身も、おにぎりも、ステーキも、焼き鳥も、沢山のメニューが店内の短冊に書かれていた。祖母はお皿を片付けにやってきた若い店員の女の子に『おいしかったです。』とお礼を言っていた。

今回の滞在で、祖母は一度も料理をしなかった。高齢で料理をするのが面倒なのだろう。普段はお漬物や佃煮を食べているみたいだ。
この部屋の近所には飲食店がたくさんあり、お店を巡るのは楽しかった。その一方で祖母の手料理が食べられないのは少し寂しくもあった。でもなんとなくそれは言えなかった。
おばあちゃんは2泊して静岡に帰った。明日はご近所仲間と鎌倉にバス旅行に出掛けるみたいだった。


本日の1曲
ハナレイ ハマベイ / ハナレグミ


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