『パラノイドパーク』人はそれに耐えられるか?

16才のアレックスははじめたばかりのスケートボードに夢中。
今日もお気に入りのスケボーパーク「パラノイドパーク」へ出かけていく。

しかし、ふとした偶然から、誤ってひとりの男性を死なせてしまう。
目撃者は誰もいない。おびえ、悩み、不安に駆られながらも、
まるで何事もなかったかのように日常生活を送っていく。
オフィシャルサイト〈STORY〉より一部抜粋

初めて行ったスケボーパークで、常連のスケートボーダーを眺めるアレックスの後ろ姿は格好良いものに憧れ、自分自身に退屈していたティーンエイジャーの頃を思い出させる。彼の後ろ姿に、居場所を見つけたいという切実な願いや、普通の少年の劣等感が滲んでいた。

『パラノイドパーク』の映像は、遮断された自分だけの世界を歩いているような浮遊感を感じさせる。スローモーションの映像に音楽をかぶせた演出は、緩やかなテンポの音楽をイヤホンで聴きながら街を歩いている感覚に近い。すれ違いはしても交わることのない多くの人々と、適度な孤独がもたらす安心感の類。

本作の撮影監督はウォン・カーウァイ(王 家衛)作品で独特の撮影スタイルを披露したクリストファー・ドイルが担当している。彼はカメラを「手持ちで」扱い、うねるようなカメラワークで対象を撮影する。
流れる景色にスローな音が重なる、そんな物事との距離を象徴するような映像演出は、少年の心情にとても近いように感じられた。


図らずも殺人を犯してしまった主人公アレックスも、事件が起きるまでは普通の少年だった。無邪気な仲間達と変わりない日常を送っていたはずなのだ。しかし事件の顛末を知ったその日から、全く違う次元にある世界の存在に気づいてしまう。

作品のストーリーは、随分前に見た悪い夢のようだった。夢の中で夕飯を食べながら楽しく談笑していると騒々しく玄関のドアが開き、ある友人が駆け込んできた。そして彼はたった今、人を殺してしまったと言った。殺すつもりはなかったがなぜかそこにいた老人を殺害してしまったと。彼は魂が抜け落ちてしまったみたいに生気がなく、思考が停止した空っぽの目をしていた。

日常に突然割って入った事件が、その場にいた偶然を激しく後悔させた。
___ なぜ、今晩ここに来てしまったんだろう?
___ なぜ、こんな事件を知る羽目になってしまったんだろう?

その夢はとてもリアルだったから、それが夢であったことに深く安堵した。しかし本当の恐怖の種類を知った気がして、目覚めたあとも暫く胸騒ぎが治まらなかった。
『パラノイドパーク』は誤って人を死なせてしてしまった16才の少年の、これからも続く人生の一部を描いたに過ぎない。彼は誰にも真相を打ち明けずに、このまま生きていくことが出来るのだろうか。

少年が殺人を犯してしまうというあらすじは、この作品のポスターにさえ印字されている。言うなれば、それだけの映画なのだ。
しかしあらすじを知ってしまっても、この映像は観るに値する。きっと、あらすじなんてこの作品のほんの、ほんの一部でしかないのだと思った。


本日の1曲
Oram / Fridge


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▼『パラノイドパーク 』【予告編】


監督・脚本:ガス・ヴァン・サント
撮影監督:クリストファー・ドイル
原作:ブレイク・ネルソン
2007年/85分/カラー/アメリカ・フランス
2008年4月12日(土) シネセゾン渋谷他にて全国順次ロードショー


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