星をあやつる

【校正】こう-せい
[名]スル
1. 校正刷りと原稿とを照合するなどして文字や内容の誤りを正し、体裁を整えること。

通勤に利用している山手線の車両モニタに、時々占いが流れる。電車を降りたら結果なんて忘れてしまうくせに、自分の星座の順番がやってくる前に降車するのはなんだか歯痒い。ドア付近に立っている他の乗客達も「今日の運勢」が映し出されると、それを見つめているような気がする。

今日は入稿がいくつか重なっているから、いつもに増して忙しいかもしれない。一体何時に帰れるんだろう?

編集部の僕には、原稿執筆と校正の仕事が待っている。最近担当したとある占い企画は、読者に評判が良くて、ブログでも結構話題になったみたいだった。
大手代理店の担当者も上機嫌で、インフルエンザにかかりながら苦し紛れに考えた次の企画もあっさり通ってしまった。社内で表彰もされ、僕はリボンのついたトロフィーを手に入れた。

でも、その占いの診断に一喜一憂する人達を見ると、僕は少し困惑する。占いを校正したのはこの僕だからだ。

それが文章である限り他の原稿と同様に手を入れなくてはならない。本来、校正は文章を読みやすくするためのものだけれど、言葉を置き換えることでオリジナルのニュアンスが失われてしまうことだってある。占いだって例外ではない。

この会社に入る前、そこら中で目にする「占い」は、もっと適当にでっち上げられていると思っていた。占いのできるライターなのか、モノを書ける占い師なのか素性はわからないけれど、会社が契約しているライター達は決まった納品日に来月の運勢をEメールで送ってくる。彼らはそれぞれにロジックを持ち、“それなりに真っ当な” 結果をはじき出しているみたいだ。

けれども提出した文章について、クライアントに大胆な内容変更を要求されることもある。前回の結果と似たようなものであってはいけないとか、最下位になってしまった人にも何か救いになるような言葉を足してほしいとか。全体的に暗いからもっと明るい感じにして欲しい、と言われることだってある。

占いなんだから仕方ないんじゃないか?と内心思う。
入社したての頃、僕は全く違う結果になってしまった原稿を前に途方に暮れた。そんな困った事態を上司に相談したけれど、彼は「クライアントが言ってるなら仕方ないよ。」とだけ言ってさっさと取材に出掛けてしまった。

もしその占いが乙女座の人達にとって有効であっても、牡牛座の人が嘆いてはいけない。 希望は平等に与えられなければいけない。
全ての星座に平等な愛と希望を!

僕は今日も自分の机で、星の数を増やしたり減らしたりする。“金運” を減らしたり、“恋愛運” を上げたりすることだってできるわけで、こうやって二本の指で煙草をつまんで吸いながら前回の結果を思い出している。


本日の1曲
Today / Smashing Pumpkins



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