走る! 第46回 六無月東京喜多(北)マラソン 〜後編〜


走歴2年で初めてのハーフマラソンに挑戦。
後編は早くもリタイアが頭をよぎった7キロ地点からはじまりはじまり。(前編はこちら


歩くのは嫌。でも、リタイアするのはもっと嫌でした。このままでは完走できないと思い、歩くことを選びました。レースに出たからには、ハーフマラソンというひとつの単位を体感したかったのです。たとえ歩いてでも。
今思えば一番つらかったのはその序盤でした。ほどよい諦めが心を楽にさせたのでしょう、数百メートル歩くとまた走り出すことができました。

2.5キロおきにある給水所はとても混雑します。プラスティックのカップに入った水をもらうためには順番待ちをしなくてはなりません。待ちに待った水をごくりと飲んだあと、思わずウエアの中にも注ぎ込みました。もう一杯を太ももと頭に掛けました。冷たい水が身体を伝うのが気持ちよく、身体の奥から息が漏れます。この日は、“次の冷たい水” を目指して走っていたようなものです。給水所では身体に水を掛け続けました。

コース上の10キロ表示の少し手前でiPhoneからも10キロ到達のアナウンスが聞こえました。ペースを把握できるように、練習と同じくNIKE+GPSアプリを起動させたiPhoneを腕につけて走っていたのです。

スタートしたゲートを再びくぐれば後半戦に突入。このゲートはゴール地点でもあるので、行く先で折り返し、ここに戻ればゴールです。この時は終わりが見えてほっとしたものの、折り返し地点は想像以上に遠くにありました。ハーフマラソンの決して短くはない距離を知るのは、ここからです。

河川敷から土手への坂を上がると道幅の狭い土手が現れ、ランナーの列が遠くまで続いていました。この先にあるはずの折り返し地点はまだ見えません。
この辺りまでくると歩いているランナーも多くなります。後方から男性の「あんなとこまで行くのかよぉ」と嘆く声も聞こえます。一方、すぐ右側を軽快な走りのランナー達がすれ違っていきます。彼らはまだ見ぬ折り返し地点を通過してきたはずです。(一体何キロ先を走っているのだ?)折り返しが、どうか少しでも手前にありますように!

眼下の河川敷にはバーベキューを楽しむグループが点在し、笑い声や、肉やタレの臭いが風に乗ってやってきます。天気のいい日曜にバーベキューを楽しむ選択肢もあったのに、わざわざ走ることを選んでしまったのです。

やっと辿り着いた折り返し地点で赤いコーンを半周し、14キロ地点に到達しました。これまで走ったことのない距離に突入したのを知ると静かな興奮を感じました。残すは7キロ。もう大丈夫だと思いました。

終盤に向けて気を引き締め直したその頃、シューズの中で足が滑りはじめました。給水所で水を掛け続けたつけが回ってきたのです。マラソンでは、全てが万全であることが難しいのでしょう。足元からべちゃべちゃと音がし、水たまりに浸かったあとのような不快感が襲います。

再び河川敷に下りると、行く手にゴール手前の橋を確認することができました。早く辿り着きたい気持ちはあるのに思うように脚があがりません。靴底と地面が擦れ、ざっざっと鈍い音がします。たまらず歩き出したものの、これではつらい時間が延びるだけ。重くなった身体をゴールに運びたい一心でまた走り始めました。コース上では半分以上が歩いていたので、ここからは抜かれることはほとんどありませんでした。

つらい時は遠くばかりを見ずに、足元を見るようにします。人が走ったくらいで景色は簡単に流れていきませんが、つま先を見れば前に進んでいることを実感できるからです。前進を目で見て確かめながらの終盤戦です。

それまで、コース上にはランナーの荒い息づかいが充満していました。それが徐々に人々の喧騒にかわり、沿道にレースを終えたランナーの姿が見えてきました。残り数十メートルを出せる全力で走ります。最後は計測マットをとん! と踏みしめて、ゴール。その瞬間は思わず両手が上がりました。

靴下を脱ぐと足の裏が白くふやけて所々皮がめくれていました。この先にあるフルマラソンを思えば、この距離を長すぎるとは思いません。でも、頭で考えるよりもずっと、最後まで歩かないことは簡単ではありませんでした。速いランナーより、最後まで走り続けられるランナーに。新たな指標が生まれた経験でした。


大 会 名 :第46回 六無月東京喜多(北)マラソン
開 催 日 時 :2011年6月5日(日)
種   目 :ハーフマラソン
公 式 記 録 :2時間32分48秒
ネットタイム:2時間31分22秒
種 目 順 位 :210位/エントリー440人中

本日の1曲
youtube
Sugarless GiRL / capsule

「走る時はなんだかんだ言ってcapsuleがいいんだヨ。」
という(数少ない)ランニング仲間の捨てゼリフがきっかけで購入。
レース当日、終盤はこの曲を口ずさむほどの妙なテンションに。



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