彼の個人的な足跡

フリーメールのメールボックスを何気なくページ送りしていたら、開封し忘れていたメールを見つけた。昨年9月に受信したそのメールは、上下をスパムメールに挟まれ、上目遣いでこっちを見ているみたいだった。

このブログで公開しているメールアドレスには、時々読者からのメールが届く。記事の感想や最近の近況など、丁寧に書かれたメールを読んでいると、人々が自分に向けてくれた誠実さがじんわりと染みてくる。中には本文さながらの長文メールもあって面白く読ませていただいている。

ブログを運営している人ならわかっていただけると思うけれど、ブログは読者の存在がなかなか表に現れない。律儀に廻るカウンターの数値を見ただけでは、文章が「実際に」どれほど読まれているかはわからないからだ。
それに記事を閲覧した人のうち、実際にコメントを書き込む人の割合は数パーセントと言われている。少ないように思える数値もアクセスログと照合すればつじつまが合う。ブログを初めてみて、人々の反応を知ることが思っていたよりも困難なことを知った。

だから、少しでも何かを伝えたいと思ってくれた人がいたならば、その気持ちを逃したくないと思った。コメントを書き込むのにためらう人がいるかもしれないからと、プロフィール欄にメールアドレスを載せた。そしてこれまでにいくつかの私信を受け取り、その全てに返事を書いてきた。

ところで、以前導入していた解析ツールには、都道府県別の訪問者を表すグラフがあった。やや関東圏に集中しているものの、ぽつぽつと全国の県名が並んでいる。

「都道府県」のグラフを眺めていると不思議な気分になる。「検索ワード」や「使用ブラウザ」は、サイトを活性化するのに役立つデータではあるけれど少々味気ない。それに比べて「都道府県」別の訪問者数は、その人の生活と結び付く個人的な足跡に思えた。

そこはどんな天気なんだろう。
自宅の窓から何が見えるんだろう。
その街には何色の電車が走っているんだろう。
並んだ地名を眺めていると、そんなことをつい考えてしまう。

ある日グラフの中に「沖縄」という文字を見掛けた。他の地名よりもなんだか目立ってしまう沖縄県。都会の人々はその地名を口にする時、目を細めて憧れの表情をつくる。もちろん自分だって例外ではない。
その日以降「沖縄」は何度かグラフの中に現れた。マウスで選択して反転した「沖縄」を見つめながら、もしかすると沖縄にいる誰かが「定期的に」訪れてくれているのかもしれないと思った。そう思うと不思議な気分になった。

はじめまして。僕は沖縄に生息してます。 あなたのファンです。

スパムに埋もれていたのは、沖縄から送信されていたメールだった。メールにはこのブログを訪れた経緯や、読んだ記事の感想などが書かれていた。
まるで解析画面に存在していた「沖縄」という文字が急に喋り出したみたいだった。やはり沖縄に読者はいて、やっぱり不思議な気分になった。

今日、『リヴィング・トーキョー』は開設2周年を迎えた。昨年転職してからは以前のようなペースで記事を更新できなくなってしまったけれど、それでも時々様子を見に来てくれる人がいることがとても嬉しい。

このブログは、頻繁に会うことのない友人達への近況報告でもあり、膨大な自己紹介でもある。400以上書いた記事を眺めれば、どれも紛れもなく自分の断片であることを実感する。
Webという巨大の網の中に彷徨っているちっぽけなこのブログ。思いつきで始めたにも関わらず、今では多くの人とのコミュニケーションを叶えてくれる大切な場所になった。

いつも話題を与えてくれる個性豊かな友人達や、コメントで参加してくれた全ての人達。毎日読者を呼び込んでくれる賢くて気まぐれな検索ロボット氏にも感謝しなくてはならない。もちろん、誠実なメールをくれた沖縄の彼と、全国に少しはいるであろうまだ見ぬ読者の方々へも。


本日の1曲
Angel Of Harlem / U2




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