ゼツボーの先の風景 『鉄コン筋クリート』
宝町の町並みはやはり東京を思わせる。東京は猥雑で下世話な看板ばかりだ。私欲に溢れた街の景色がこの世の全てを語っているかに思われる。管理の行き届かない繁華街を見ていると、美しい町並みなんて最初からなかったみたいに思えてくる。
この世の邪悪をかき集めたような薄汚い町、宝町。ヤクザがはびこり、老人がうめき声をあげ、成金が舌なめずりをしている腐った町。そこに二人の餓鬼がいた。親がいないみなし子のクロと、シロ。
クロとシロは宝町では有名な餓鬼。我が物顔で空を飛び回り、人間を襲っては金品を奪う。攻撃的なクロと、のんびり屋で奔放なシロ。対極に思われる二人はいつも一緒だった。
希望のない生活だ。宝町は血生臭い闘争にまみれ、力のあるものだけが生き残る。
クロは信じるもののためなら手段を選ばない。退廃の進む町の景色に心を痛め、憎悪してみても、もはや二人がこの町から離れることは出来なかった。ここだけが彼等の居場所で、町と同じくして心は荒んでいく。心を癒す方法も二人は知らなかった。
ある時シロが襲われ、クロは暴徒と化してしまう。復讐に全精力を注ぎ、毎晩人間を襲い続ける。その繰り返しは、人間の破滅を想像させる。やがてクロの人格は崩壊してゆく。
クロを見ていると、やさぐれて自暴自棄になっていた頃を思い出す。
悪を抱えながら生きていくことはいけないことなんだろうか?
孤独を知ってしまった人間は、希望を再び手に入れることが出来るのだろうか?
まだ何かを信じられるだろうか?
あの頃、世の中は救いなんてないかに思われた。しかし、まだこうして生きていられるのは、望みを託す価値のある僅かな希望の存在を認識できたからだと思っている。絶望の先にクロのための風景は残されているのだろうか。
本日の1曲
Feeling Yourself Disintegrate / The Flaming Lips
『鉄コン筋クリート』全3巻 小学館 (1994/03)
→小学館サイト内 松本大洋特設ページへ
映画化決定!
12/23(祝)全国ロードショー
→映画『鉄コン筋クリート』公式ホームページへ
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