『間取りの手帖 remix』







佐藤 和歌子/著
¥525(ちくま文庫)


作者の佐藤和歌子氏は、賃貸情報誌でヘンな「間取り図」を見つけてはスクラップしてきたという。彼女が収集した間取り図を掲載したフリーペーパーは評判となり、のちに『間取りの手帖』が出版された。

先日用事のついでに文庫本コーナーへ立ち寄り、それが『間取りの手帳 remix』として文庫化されたのを知る。しばし立ち読みしたあと購入した。

文庫版は各ページに1つずつ間取り図が掲載され、下に短いコメントが添えられているだけのシンプルな構成。間取り図から住人を見立てて綴った6篇のショートコラムも含みのある面白さが感じられて印象に残った。

奇異な形状に違和感を感じる間取りもあれば、一見普通に見えるくせに「実はとっても不自然!」な間取りもある。まじまじと間取りを眺めて初めて下のコメントの意味を理解する、というタイムラグも本書の楽しみ方のひとつなんじゃないか。


留年して大学5年生になるとき、大学近くのアパートを退出することにした。中央線沿線の不動産屋に駆け込む日々が続き、最終的に物件を決めるまで40件以上の不動産屋をまわった。初めて誰にも指示されずに、自分の住みかを探す興奮もあった。

目の前の簡素な設計図は、そこに住む人の生活を想像させてくれる。度重なるコピーとFAXでガサガサに解像度が落ちた間取り図を持ち帰っては、その部屋の暮らしを想像していた。まるで上空から住居を俯瞰するみたいだ。

『間取りの手帖』に触発されて賃貸情報誌から「ヘンな間取り」を探してみることにした。いくら変わった間取りとはいえ、そこに間取り図があるということは、その部屋が確かに存在している証拠でもある。

ストイックな間取りのこの部屋も東京のどこかに実在していて、電話を掛けさえすれば借りられるはずなのだ。


本日の1曲
On Fire / Phoenix


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