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買い物日誌010 書きたい気持ち

 

デジタルメモ pomera
¥21,800
購入場所 ヨドバシカメラ 新宿西口本店



年末の帰省をきっかけにpomeraが欲しくなった。実家にはパソコンすらないから、時間を持て余す正月にブログの文章が作成できない。パソコンほど立派でなくてもいいけれど、携帯電話ではちょっと物足りない。

自分の中で購入を決めたのはよかった。でも人気商品でどこも品薄。予約を受け付けている店舗でも入荷は2月だったりする。オークションでも定価以上の高値がついているのだ。

一見すると小さなネットブックのように見えるけれどインターネットには接続できない。画面もモノクロでパソコンよりはワープロに近い。pomeraはそんな単機能なガジェットでありながら、ライターやブロガーの心を掴んで大ヒットとなっているのだ。

冬休み初日の午後、半ば諦めながらヨドバシカメラのウェブサイトを見ると「数量限定入荷」の表示。急いで店舗に電話をかけホワイトを取り置き、意気揚々とpomeraを迎えに行った。そして今、pomeraでこの文章を書いているのだ。

年末に欲しいものを買うということは「自分へのご褒美」的な意味合いも、無くはない。色々あったけれど一年間の仕事もなんとか乗り切った。でも本当の理由はほかにある。

ある友人氏は、写真日記 “デイ・バイ・デイ” のことをこう言った。
『あれ見るとね、なんか元気がない日っていうのがわかるのよ。で、やっぱりそういう日もあるよね、って思ってなんか安心するのよね。』

自分の情けなさに打ちひしがれたり、納得できないことに腹を立てたり、不安定な状況に心揺らいだり。
日常なんて良いことばかりがあるわけじゃない。読んだ本がすぐに役立つ日常でもない。だからもっと文章を書きたいと思った。


本日の1曲
ハイウェイ (Alternative) / くるり
youtube


関連エントリー
2008/11/01 『買い物日誌009 あたらしい冬の私
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2008/10/01 『買い物日誌006 パーフェクトな記念品
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2008/08/10 『買い物日誌002 慎ましいソーダ
2008/07/12 『買い物日誌001 明け方のピエール


リニューアルオープンのお知らせ


今日リヴィング・トーキョーはリニューアルオープンします。
URLはそのまま。今まで通りにアクセスいただけますが、実はブログシステムごと変わっています。
 
ブログシステムは、8月に開設したデイ・バイ・デイと同じ『WordPress』を使っています。(デイ・バイ・デイは、予想以上にたくさんの方に見ていただいているようです!)
 
WordPressの良いところは、プラグインが豊富にあることです。自分のブログに必要な機能だけを選んでカスタマイズしていけるところが気に入っています。
 
例えば、現在右サイドバーにある『人気エントリー』では、閲覧回数の多い記事が表示されています。これは『WP-PostViews』というプラグインで海外の開発者が配布しているものです。これまではブログパーツでしか対応できなかったものが、プラグインによって簡単でスマートに実装できます。世界的にシェアされているブログシステムだからこそ選択肢が多いんです。
 
サーバーも契約済、ドメインも取得済なので、ブログの引越にお金がかかったわけではありません。ただ、想定外の手間がかかってしまいました。
 
一般的にブログの引越は旧ブログから記事をエクスポートして、新ブログにインポートするだけで済みます。ところが、JUGEMのエクスポート形式は独特で、WordPressにそのままインポートすることはできませんでした。
 
いくつかの手段を検討しましたが、最終的に全自動はいさぎよく(?)諦め、全ての記事を手動で移行することにしたのです。これは地味で骨のおれる作業です。
431の記事と822件のコメントをコピー/ペーストし、本来投稿された日時に設定しなくてはなりません。
 
引越までの道のりはこうです。

1. 新ブログ用WordPressをサーバーにインストール
2. 新ブログのテーマ(テンプレート)をカスタマイズ
3. 旧ブログの全記事を新ブログに手動で移行
4. 旧ブログの画像ファイルをサーバーにアップロード
5. 新ブログ管理画面で、記事内にある画像タグの全てを手動で書き換え
6. 旧ブログの全コメントを新ブログに移行
7. ドメイン設定  

 
ようやく記事の移行が終わったのでここで公開することにしました。

実は4〜6の作業が終わっていないので、リビング内の他の記事へのリンクは無効になっています。見辛い部分があるかと思いますが、順次調整していくので少しお待ちください。まだ完全に移行が終わったわけではありませんが、ちょっとした達成感はあります。
 
リヴィング・トーキョーは来月3周年を迎えます。おそらくこれからも長くブログを続けていくでしょう。だから思い切って引越しました。
リニューアルしたリヴィング・トーキョーをよろしくお願いします。


本日の1曲
My Drive Thru / Santogold, Casablancas, NERD


買い物日誌009 あたらしい冬の私


クロエ オードパルファム30ml
¥7,350
購入場所 東急百貨店 渋谷駅・東横店


ヘルムート・ラング オードパルファム様、あなたがいなくなってしまったのは、まだ夏の盛りのことでした。

最初はたいして慌てませんでした。あなたの不在に物足りなさを感じなかったわけではありませんが、すぐにどうにかせねばという気にもならなかったのです。今はインターネットがありますから、捜せば見つかるだろうとも思っていたのです。

秋がやってきて、私はストールを手にとりました。すると微かにあなたの香りがして私は動揺しました。思わず空の瓶を首元にあてました。人差し指でノズルを押し込みましたが、しゅ、と気体が放たれただけでした。

久し振りに感じたあなたの香りに、私は慌てていたのです。今までもあなたを街で見掛けたことはあまりありませんでしたから、根気よく捜さねばなりませんでした。
でも、あなたの所在はわかりませんでした。誰かに尋ねる度に、同じ返事が何度繰り返されたか。私は途方に暮れてしまいました。

それならば、他によいものがなかったかと思い返したりもしましたが、あなたといる間は他のものは目に入らなかったようで、私はなにも思いつきませんでした。

私はあなたと、できることならずっと一緒に過ごしたいと思っていました。
不確かな告白だと笑いますか? でも私の慌てようを見たら、それが嘘ではないとわかっていただけると思います。

長くボトルも捨てられませんでしたが、ようやく決心がつきました。今夜から新しい方とお付き合いすることにしたのです。

デパートの目立つ場所にクロエ オードパルファム様はいました。あなたを見つけるのよりずっとずっと容易かった。新しい方に出会って数日が過ぎた頃、私はその香りに包まれたいと思うようになっていました。

新しい方とのお付き合いがどれくらいになるか。それは分かりません。すぐに別れてしまうかもしれませんし、あなたと過ごした時間を越える付き合いになるかもしれません。あなたと出逢ったときにわからなかったように、今はわからないとしか言いようがないのです。

そう遠くない日にお別れが来ることはなんとなくわかっていました。でも私が想像していたよりその日は早く訪れたようです。この5年間、あなたがもたらしてくれた安らぎは忘れられないものです。
もう12月になりました。あなたを捜し続けた日々も少しずつ遠くなっていきます。


本日の1曲
Big Girls Don’t Cry / Fergie
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>>ヘルムート・ラング(Helmut Lang)ヒストリー>>

1976年 ヘルムート・ラング氏が『ヘルムートラング』設立
1999年 PRADAに買収されプラダグループの傘下に入る
2005年 ヘルムート・ラング氏がクリエイティブディレクターを辞任
このあたりから徐々にフレグランスの流通が少なくなってきたようです。
2006年 リンク・セオリー・ホールディングスに買収される
新デザイナーにマイケル・コロボス、ニコール・コロボス夫妻が就任
2007年 青山・骨董通り沿いに路面店がオープン
直営店の方によると「フレグランス販売の予定はまだない」そうです。

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ポタリング・トーキョー 〜紅葉美し昭和記念公園編〜



C氏から昭和記念公園に二人乗り自転車がある、と連絡があった。我々には行楽地でよく見掛ける二人乗り自転車に乗りたいという野望がある。
高円寺から中央線沿線を下り、午前11時前に西立川駅に到着。小さなプラットフォームの駅で大勢が下車し、皆が昭和記念公園のゲートに向かってぞろぞろと歩いていく。

昭和記念公園は、立川市にある国営公園で、その敷地面積は東京ドーム約40個分もあるそうだ。池や広場はもちろん、バードウォッチングができるバードサンクチュアリーや巨大なレジャープールまである。(園内マップ)年間入園者数は349万人になるという全国的に見ても立派なレジャースポットなのだ。

サイクルセンターには我々の予想に反して「ただのママチャリ」が100台くらい並んでいた。返却した時には1台も残っていなかったから、ママチャリも大人気の様子である。肝心の二人乗り自転車は残念ながらすべて貸出中だった。人気の程がうかがえる。

ただのママチャリにまたがった我々は、数々の植物を眺めながらサイクリングコースをひた走った。隣接するエリアでさえ遠く離れているからここの移動に自転車は欠かせない。子供たちは「くせー!くせー!(銀杏が)」と叫びながら元気よく我々を追い抜いていった。
バーベキューエリアのにおいに触発され、まず売店に向かうことにする。焼きそばやアメリカンドックで腹ごしらえを終え、サイクリングコースに戻る。

「こどもの森」エリアに差し掛かるとケタタマシイ歓声が聞こえてきた。近くの駐輪場に自転車を止め、ドーム型の巨大トランポリン「雲の海」を見物する。

子供たちは雄叫びをあげながら白いビニールの山に群がり、跳ね、ドームをかけ降りまた登る!まるで何かに憑かれたかのような貪欲な行動。連なった白い山々は興奮のるつぼと化している。そんなアンファンテリボーな光景を眺めたあと、C氏おすすめの「霧の森」へ行く。

「霧の森」では広場の中央から30分おきに水蒸気が噴出し、人工的に霧が作り出される。シューッと霧が出始めると付近のエリアにいた子供たちが甲高い声をあげながら駆け寄ってくる。濃い霧の中に入ると1メートル先も見えない。大人の戸惑いもなんのその、興奮状態の子供たちが濃霧の中から次々飛び出してくる。
C氏曰く「子供心を掴みすぎ」な遊具たち。昭和記念公園は(意外にも)斬新な遊具が揃っていることが判明した。

日本庭園のもみじは一段と赤く紅葉していて、そこらじゅうで年輩の方々の「あらぁ・・・。」とか「うわぁ・・・。」という声が聞こえる。雪吊りした松の姿が池に映って荘厳な雰囲気を漂わせていた。(国営昭和記念公園 日本庭園雪つり
寒空のジョガーとすれ違いながら自転車を走らせているとイチョウ並木に差し掛かった。見事な黄色の並木を大いによそ見をしながら走る。

およそ3時間半の探索を終え、自転車を返却し「水鳥の池」にやってきた。スワンボートもなかなか繁盛している様子で、視界に入るボートの数は井の頭公園よりずっと多かった。

大学浪人で一年間立川に住んでいたものの、住んでいる間は昭和記念公園に来たことがなかったように思う。のちに花火見物やバーベキューをしに訪れたことはあったけれど、公園の奥地まで探索したのは今回が初めてだった。

久し振りにどんぐりを手にとったり、雑木林に現れたタヌキともキツネともつかぬ不思議な動物をまじまじと眺めたり。タイミングよく紅葉も堪能できてしまった秋の休日であった。


本日の1曲
Like A Lovesong (Back To Back) / the pillows


国営昭和記念公園
公式サイト:http://www.showakinenpark.go.jp/

JR青梅線・西立川駅より約2分/JR中央線・立川駅より徒歩15分
開演時間:3月1日〜10月31日 9:30〜17:00/11月1日〜2月末日 9:30〜16:30
休園日:年末年始(12月31日・1月1日)及び2月の第4月曜日とその翌日
入園料:大人(15歳以上)400円/小人(小・中学生)80円
レンタサイクル:大人(15歳以上)3時間410円(30分ごとに70円)


『荒野へ』





ジョン・クラカワー/著
佐宗 鈴夫/訳
¥700(集英社文庫)


1992年の4月、東海岸の裕福な家庭に育ったひとりの若者が、ヒッチハイクでアラスカまでやってきて、マッキンレー山の北の荒野に単身徒歩で分け入っていった。4か月後、彼の腐乱死体がヘラジカを追っていたハンターの一団に発見された。


全米でベストセラーとなったノンフィクション、『荒野へ』は、こんな書き出しから始まっている。友人と入った書店で、とにかくすごいからと薦められ手にとったにしろ、興味を持たずにいられない何かがあった。

彼はなぜ、不自由のない暮らしを捨て、わざわざアラスカにまで行って無惨な死に方をしなくてはならなかったのか?
クリストファー・J・マッカンドレスに仕事以上の興味を持ったクラカワー氏の緻密な取材行為のおかげで、私達は「アラスカで餓死した青年」の個性を感じられるようになる。

裕福な家庭に育った青年が、裕福であるがゆえに自分の境遇に満足できなかったとしたら。若者は感化されやすく物事に傾倒しやすい。先人の偉大な書物に傾倒するあまり、今日の文明に違和感を感じてしまう若者がいたとしても不思議ではない。

しかし、マッカンドレスの死が全米に知れ渡ると、少なくない人々が不快感を口にしたそうだ。日本でも時々ある、危険な地域に足を踏み入れ命を落とした若者を語るときと同じように。そして当然のごとく、彼らは一部の人々に英雄のように崇められたりもする。

マッカンドレスがアラスカに向かった時、欲求だけに突き動かされ、興奮状態で地に足がつかず、冷静さを欠いていたのかもしれない。若さは時にそういう事態をもたらす。
けれども、強い意思なくして行動を起こすとはできない。彼は、強い意思をもってアラスカに向かい、いくつかのミスのせいで結果的に命を落とすことになってしまったのだ。

彼はカメラとノートを持ち、人生を変える旅の記録を残していた。そのおかげで死の直前をどのように迎えたかのかも、私達は推測することができる。

本著は、死後に論争を巻き起こした青年が、ただの青年だった頃の話だ。そして、ある人物について深く掘り下げ、事実、もしくは事実に近い物語を提示する作家という職業の素晴らしさを感じさせる作品でもあった。

マッカンドレスは、地図に記載されていない地域を放浪したがっていたという。
しかし彼がアラスカを訪れた1992年にはアラスカに地図上の空白地が残されていなかった。そこで彼は地図を捨て、彼の頭に未知の大地を残した。彼にとっては、簡単ではないということがなによりも重要だった。

毎日、テレビをつけているだけでいくつものニュースが読み上げられていく。この本を読んだあとは、それがいっそう早く感じられた。
我々はニュースの主人公達の人生について少しでも考えを巡らせるべきなのだ。


本日の1曲
Sæglópur / Sigur Rós


買い物日誌008 ひのきのときめき


ひのき泥炭石 150g
¥735
購入場所 サンドラッグ高円寺店


一般的に言って、「カビ臭い」という言葉は誉め言葉ではない。多分。しかしひのき泥炭石(でいたんせき)の香りを他になんと形容していいのか分からなくて悩む。
泥炭石はカビのいい臭いがする。

高円寺駅近くのドラッグストアのうっすら埃の積もった棚にひのき泥炭石はあった。商品が出ていかないから新しい品が並べられることもないのだろう、華やかなパッケージで賑わっているボディーソープ部門のすぐ隣にありながら、石鹸部門は実に地味でひっそりとしていた。

泥炭石を手にとり、においを嗅いでみた。パッケージに鼻をあて息を吸い込むと、山梨県山中湖村にある、親戚の別荘が思い出された。子供の頃は別荘に着くとまず胸一杯に空気を吸い込んだものだ。父親の「カビ臭いな。」という呟きを聴いてからは深呼吸を控えるようになったのだが、泥炭石はこの別荘の臭いによく似ている。

檜(ひのき)とカビの香りを混同しているのかもしれないし、実は檜とカビの臭い成分が似ているのかもしれない。でもとにかく、この懐かしい香りのおかげで泥炭石を気に入ってしまった。

炭には毛穴の汚れを吸着する作用がある。溶解でも中和でもなく「吸着」というのが良い。体を洗っている時は、テレビ番組のフリップよろしく、横線(肌)の上を円(炭成分)が滑り、円の回りに小さな図形(皮脂などの汚れ)がキューチャクされていくさまを想像してにやにやしてしまう。だから風呂上がりには得も言われぬ達成感がある。吸着は完了したのだ。

カビ(おそらくは檜)のすがすがしい香りも良い。個人的には、華やかな香りより薬用っぽい効きそうな香りにひかれる。ひのき泥炭石の香りには、オリジンズの「アンドルー・ワイル フォー オリジンズ」やアルビオンの「スキンコンディショナー」のような説得力がある。今やこの臭いを嗅ぎたいから風呂に入っているようなものだ。

ごしごしとタオルに撫で付けていると石鹸はどんどん小さくなる。使い終わったあとはひとまわり小さくなっているのがはっきりと分かる。減りの早さを考えればちょっと高価かもしれないが、このときめきは捨てがたい。


本日の1曲
Glass / pupa

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ポタリング・トーキョー 〜秋の秩父でMTB編〜



友人と自転車で併走するのは久しぶりだった。今は友人達と住まいも離れ、一緒に自転車を漕ぐことも無くなってしまったからだ。そんな折、最近MTB(マウンテンバイク)にハマっている友人C氏と、“関東近県で自然が多いところ” にサイクリングに行く計画が持ち上がった。

今日の目的地は埼玉県秩父郡長瀞町(ながとろちょう)。C氏はそこにアウトドアブランドのmont-bell関連の施設があることに目をつけたらしい。

練馬インターチェンジから花園インターチェンジへ。都内から約2時間で長瀞に到着した。あらかじめC氏がMTBを予約してくれていたので、アウトドアセンター長瀞へ向かう。入り口には色鮮やかなカヤックが並び、ウェットスーツ姿の大学生のグループもいた。

1,000円で1日レンタルしたMTBに乗り、まずは周辺を軽く走ってみることにする。駅前には昔ながらの商店街があり、土産物屋や古い飲食店が並ぶ。長瀞の町は、こぢんまりとした地味な観光地だった。

そして至るところで「ライン下り」の看板を見かけた。ライン下りの出発点に向かう送迎バスには50代くらいの皆さんが乗り込んでいた。アクティブな中高年はライン下り、若者のグループはラフティングをし、アウトドアに親しんでいる人々はカヤックを選択するのかもしれない。(MTBをレンタルしている人は我々の他に誰も見なかったが)

町を一周した我々は昼食をとることにした。緑に囲まれたウッドデッキで、山菜釜飯と豚肉のソテーをつつく。気候は暑くも寒くもなく、空気はさわやかで時折鳥の声が聞こえる。あまりの居心地の良さについ長居をしてしまった。

川岸に降り、幾何学的な模様をした岩の造形に見入っていると、向こうからC氏が大声で呼んでいる。指差す方を見ると、上流から一隻のボートがやってきた。ライン下りである。
おじ様おば様方が興奮と戸惑いの表情で目の前を過ぎていく。中には川岸にいるギャラリー(我々)に果敢に片手を振り続けている人もいる。もちろん我々も手を振り返した。

「あれダッキー(二人乗りゴムボート)じゃない?」とC氏が言う。確かに人影は2つあった。が、近づいてきた船体に目を凝らすと犬が搭乗しているではないか。
犬氏は救命具をつけガタガタと揺れるボートの上でクールにバランスを保っていた。なんて芸達者なんだろう!犬氏の多趣味さには恐れ入ってしまった。

ところで長瀞の町並みは我々の故郷に似ている。国道周辺の景色は藤枝市や島田市のようだし、SLが走っているところも金谷みたいだ。故郷のしがらみは嫌いな我々だが、故郷に似た風景では盛り上がってしまう。
次はアウトドアショップで貰った周辺マップに記載されている阿左美冷蔵・金崎本店に行くことにした。マップには「2時間待ちもあるかき氷」とある。2時間待ち!?

暖簾をくぐると、古い母屋の庭先にぽつぽつと籐椅子が並ぶオープンテラスがある。母校の学園祭を思い出すような手作り感溢れる空間である。軒先に揺れる「氷」の旗や、オレンジの光を放つ照明など、古き良きを現代に還元したような若いセンスが感じられる。

天然氷は天然水を自然に凍らせ切り出したもの。プールのような巨大な貯水池では、毎日氷の表面を掃除するそうだ。自分がトイレに行っている間のC氏の取材によると、阿左美冷蔵の創業は明治時代で現在のご主人は四代目とのこと。

我々は揃って白玉せん茶あずきを注文する。口に入れたら一瞬で溶けてなくなるキメ細かく柔らかい食感。思わず目を見合わせる我々。はっきり言って感動的に美味しい。例えるなら、三角に切ったスイカの頂点の触感と甘さが続く。そんなことは滅多に思わないのに、珍しく家族に食べさせたいと思う逸品であった。

食べ終わる頃には日も暮れ、すっかり肌寒くなっていた。親しい友人とのドライブに、美味しいものと自然に囲まれたさわやかなポタリング。休日を満喫し我々は大満足だった!
さくっと日帰りで楽しむ小旅行は我々の間でブームになりそうな予感がする。


本日の1曲
I Was A Kaleidoscope / Death Cab For Cutie


阿左美冷蔵金崎本店リンク
埼玉県秩父郡皆野町大字金崎27-1
電話 0494-62-1119
定休日:毎年12月1日〜翌年2月末日までの毎日

秩父方面へお出かけの際には、是非。
メニューは季節で変わるようですが、白玉せん茶あずきは絶品でした。


買い物日誌007 文具売場で逢いましょう

ドクターグリップGスペック
¥630
購入場所 ITO-YA渋谷店

人間工学【にんげん・こうがく】
物や環境を人が自然な動きや状態で使えるように設計する工学、あるいは、人の物理的な形状や動作、生理的な反応や変化、心理的な感情の変化などを研究して、実際のデザインに活かす学問をさす。(Wikipedia)

見慣れない曲線を見掛けたら人間工学と思え、というのは勝手な持論であるが、やかんのグリップやおたまの持ち手など、今や至るところに人間工学は採用されているのだ。
実を言うと、その曲線過多なフォルムがあまり得意ではない。同じ用途の製品を買うなら、直線的でシンプルなフォルムの方を選ぶだろう。

ところで先日、仕事で宛名書きをする機会があった。
まとまった数の伝票を準備していると、同僚氏はこれ書きやすいですよ、とドクターグリップを差し出した。人知れず(出たな!人間工学!)という気分になる。

猜疑的な顔でドクターグリップを受け取り、文字を書く。
適度な重みと持ち手にコーティングされた衝撃吸収ゲル。文字を書くときのストレスが心なしか軽減されているような気もする。 

日に日に借りる回数は増え、一度使えばそれでしか宛名を書きたくない!やだやだやだよう!という状況になってしまった。人間工学は宛名書きに威力を発揮し、今更ながらその書き味にハマってしまったのである。いつしかドクターグリップは我々の間で「書き味なめらかボールペン」というコードネームで呼ばれるようになっていた。

金曜の夜、明日こそは文房具屋でドクターグリップを買おうと思っていたところだった。渋谷駅の改札をくぐる直前で、まさにこの真上に伊東屋があるのを思い出したのだ。伊東屋は銀座に本店を構える、創業100年の老舗文房具店である。

子供の頃、父親は東京に出張するたびにお土産を買ってきてくれた。父親の東京土産はなぜか伊東屋のものが多かった。
ある時父親は、小振りのハサミや定規が正方形の薄型ケースにぴったりと収まったステーショナリーセットを買ってきた。その洒落た文具は随分クラスメイトに羨ましがられたものだ、静岡の子供にとって伊東屋のロゴの入った袋は東京の象徴でもあった。

世の中には文具好きな人たちがいる。使うアテもないのに変わった文具を見つけると買わずにいられない人達。用もないのに定期的に文具売り場にやって来てしまう人達が。

伊東屋の筆記具コーナーは、なかなか最前列を確保できないくらい混雑していた。文具マニアの皆さん(推測)が金曜の夜に伊東屋に集結しているとは知らなかった。
そして、使うアテのないペンやシールを買い込む。もちろんドクターグリップも。


本日の1曲
Just What I Need / Wouter Hamel

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ポタリング・トーキョー 〜新宿で鳴らす音楽編〜



隣駅の中野にはつけそばの老舗「大勝軒」がある。散歩にでも行こうかと、中野の地域情報をインターネットで調べていたら、そのつけそばが無性に食べたくなってしまった。暇を持て余していたところだったので、自転車で出掛けてみることにした。

もう21時近くだったけれど、カウンターだけの狭い店内は満席。食べているすぐ後ろの丸イスで数人が待っている。インターネットで調べたお店にすぐに出向くのはちょっとわくわくする。太麺のつけそばを美味しく平らげた後、そのまま新宿方面に向かって走ることにした。

大久保通りを東に進み神田川を渡り、大久保駅の手前の交差点を右折して、新宿駅西口の大ガード下に出る。新宿は、前職で5年半も勤務していたから特に目新しい土地でもないけれど、食後の腹ごなしには丁度いい。時間だってたくさんあるのだ。

閉店後の京王百貨店の前では、古内東子的な歌声の女性が路上ライブを行っていた。都心の特徴なのか、時代の流れなのかわからないけれど、新宿のストリートミュージシャンはちゃんとアンプやマイクを備えて、周辺に歌声を轟かせている。この辺りでは「アコースティックギターに生声」というアンプラグドなスタイルはあまり見かけない。

そのまま南口に回り、サザンテラスに向かう。Krispy Kremeもまだまだ人気のようで40分待ちの行列ができている。開店当初からよく通りかかるものの、その行列のせいでまだ食べたことがない。

高島屋も、東急ハンズも、紀伊国屋もすでに閉店していた。(無駄に昼寝をしてしまったせいだ) 紀伊国屋脇のスロープをするすると下り、バルト9で上映作品をチェックした後、甲州街道を戻ってflags前で自転車を止める。

広場を見下ろすと、バンドスタイルのミュージシャンがいて、改札の近くにもキーボードを携えたミュージシャンがいた。どちらも女性ボーカルで一定の観客が輪を作っている。
キーボードの彼女の軽妙なトークは、FMラジオのディスクジョッキーみたいだ。彼女を囲んでいるのはほぼ全員が男性だった。彼らは微笑みながらトークに頷いたり、至極控え目に写真を撮ったりしながら、歌う彼女を見つめていた。

ところで、街は歌を披露するのにこれ以上ないシチュエーションのように思える。街をひとりで歩いている時には、結構色んな事を考えないだろうか。人生で重要だと思われる決断について、日常生活の些細な出来事について、何年も前からうんざりし続けている自分の問題について。

そんな時に聴こえてくる歌は、心情とシンクロして印象的に響くかもしれない。(小谷美紗子が路上でライブをしていたら、皆が足を止めて聴き入ってしまうだろう)
今夜新宿で見かけた3組の女性ミュージシャンは、自分を見据えるいくつもの視線に臆することもなく歌を歌っていた。

LUMINEの中にあるBook 1stに入店し、文庫本を購入。30分後に店を出ると、キーボードの彼女の周りにはさっきと同じ規模の人だかり持続していた。彼女は「最後の曲です。」といい、最後の演奏を始めた。


本日の1曲
ひこうき雲 / odani misako・ta-ta
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Radiohead “JAPAN TOUR 2008” @さいたまスーパーアリーナ(2008.10.05 Sun)


客電が落ちれば、直前にしていた会話すら思い出せなくなってしまう。さいたまスーパーアリーナに集まった数万人が息をのんだ瞬間。今夜、最新アルバム『In Rainbows』のオープニングトラック「15 Steps」でライブがスタートした。

2曲目はRadioheadの名を世界に知らしめた『OK Computer』のオープニングトラック「Airbag」、自室で聴きまくっている『The Bends』から「Just」、『Hail To The Thief』からは「There There」、長年MTVのCMに使用され続けている『Amnesiac』の「Pyramid Song」。

ベストアルバムが発売されたこともあって、序盤は新旧アルバムから1曲ずつ楽曲が演奏されていく。
ここまでされると、してきたはずの心の準備も追い付かない。


彼らが二酸化炭素の排出削減を目論んでいることを加味すれば、最小限の装置で最大限の演出効果があるステージセットと言えるだろう。暗闇に輝く虹色のネオンはシンプルで洗練された印象さえ与える。

「コンバンワ。」「・・・Are you ready?」
最小限にとどめられたMCで、今夜はバンドメンバーの紹介すらされていない。その代わり、次々と演奏されていく楽曲の圧倒的な存在感に満たされていく。

「Paranoid Android」のイントロが流れると一際大きな歓声があがった。静かな歌い出しから一転、へヴィーなサウンドが病み付きになる。鍵盤を叩き「Fake Plastic Trees」を呟くように歌うトム・ヨークの歌声を聴けば、時間が過ぎるのが本当に惜しくなってしまう。

個人的には、今夜のハイライトは「Idioteque」だった。とかく内向的と称される『KID A』の代表曲がアクティブなアレンジでフロアを揺らす。ギターを置いたトムが踊り、アリーナに密集したオーディエンスの狂騒がさらに気分を高揚させる。ステージから遠く離れた5階のスタンドだって揺れていた。

一夜開けても、目を閉じればステージのネオンとギターサウンド、オーディエンスの熱っぽい歓声が蘇ってくる。
初めて観るRadioheadのライブ、その雰囲気はロックバンドのライブそのものだった。この楽曲たちと世界を旅することができるなんて、なんて稀有な人達なんだろう・・・!

(Photo/Rolling Stone.com –Radiohead photos


SETLIST

01. 15 Step
02. Airbag
03. Just
04. There There
05. All I Need
06. Pyramid Song
07. Weird Fishes/Arpeggi
08. The Gloaming
09. Myxomatosis (Judge, Jury & Executioner)
10. Faust Arp
11. Knives Out
12. Nude
13. Optimistic
14. Jigsaw Falling Into Place
15. Idioteque
16. Fake Plastic Trees
17. Bodysnatchers

– Encore –
18. Like Spinning Plates
19. Videotape
20. Paranoid Android
21. Reckoner
22. Everything In Its Right Place

– Encore2 –
23. Go Slowly
24. My Iron Lung
25. How to Disappear Completely


本日の1曲
Idioteque (Live) / Radiohead

▼『I Might Be Wrong – Live Recordings』
『KID A』『Amnesiac』に収録されている楽曲のライブ音源を集めた
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2008/09/12 『買い物日誌005 二酸化炭素とロックンロール